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2019/02/01

Bench 69−伝説の「グリーン・ベンチ・シティ」

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M先生が歳をとったら、ベンチに座って、街を眺めていたい、と言っていたという話を前回したのだが、そのような社会常識があるために、かえってベンチが撤去されてしまったという、伝説があることがわかった。歳をとることと、ベンチとには、因縁の関係があるらしい。


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それは、「グリーン・ベンチ・シティ」(伝説)と呼ばれるものだ。フロリダにセント・ピーターズバーグという市があって、1908年あたりから不動産屋によってベンチの設置が始められ、その後市長の肝いりで濃緑色のグリーン・ベンチが1916年から設けられ、最盛期には7000基のベンチが街に存在したのだそうだ。7000基という数は相当なもので、それ自体が地域資産となるに相当する基準の量だと言って良いだろう。ベンチというものは、お年寄りにとってシンボルなのだと、文化人類学者のベスペリは指摘している。それはあたかも、心のこもったもてなしや、友達のような好意、そして、ほとんどすべての人びとを受け入れてくれそうなものであることを、ベンチは現している。よく言えば、ソーシャル・キャピタルとして機能して、お年寄りの暮らしの向上に役立ったということになるが、悪く言えば、このためにこの市の高齢化率が上がってしまったことになるのだ。おそらく、フロリダだから、米国の各地から高齢者の移住者たちが押し寄せたことは想像に難くない。どのくらいだったのか、という報告が行われているのだが、60年代から70年代のピーク時には、65歳以上人口が30%を超えてしまったのだが、60年代のベンチ撤去後、2000年には、17%にまで低下したのだそうだ。また、平均年齢も47歳から39歳にまで低下している。


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ここで登場するのが、ベンチのイメージなのだ。やはりベンチには、上記の老年イメージがつきまとうために、ついに若年対策として、すべてのベンチが1960年代後半に取り除かれてしまったという事態に立ち至ったのだ(Will Michaels (2012)The Making of St. Petersburg)。もちろん、ベンチを取り除いたくらいで、どのくらいの社会的影響力を持ったのかはわからないだろう。おそらく、若年対策の都市政策が他にも出動されたからということも作用を及ぼしているに違いないだろう。


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さて、ここでベンチに対する考え方が二つに別れることになる。「ベンチに座って、老後を過ごしたい」派なのか、「ベンチに座らず、若く働きたい」派なのか、ということだ。上記で述べたように、市という規模の施策の問題がここには絡んでいて複雑だともいえる。セント・ピーターズバーグ市は、最初ベンチ設置派が、20世紀初頭に増加した。けれども、60年代以降、ベンチ排除派が増大した。ここはちょうど、米国では60年代までソーシャル・キャピタルが増加し、その後80年代へ向かってソーシャル・キャピタルが低下したと言われる時期にぴったり合っている。


Magnificentthegreenbenchestittle



そして、現在に至って、このグリーン・ベンチが見直され、少しずつ若い層でも、ベンチ設置派が増してきているというところなのだ。グリーン・ベンチ・シティが伝説化したことで、ブランドとしての価値が出てきたのだ。結果として、ベンチ製造業が復活し、この商標のビール醸造業が起こり、グリーン・ベンチ・マンスリーというコミュニティ新聞が発行されるようになっている。ここがベンチというものの二律背反する魔法的な威力を持っているところで、好きなのだ。両方の意味を併せ持つから、評価できるのだ。

 

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。