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2018/03/15

湯宿温泉への合宿に参加する

Img_1074 ヘニング・マンケルが描く「刑事ヴァランダー」シリーズの番外編に、ステファンという舌がんを患った刑事を主人公とした、佳作品がある。この「タンゴステップ」という小説では周りから周りから、物語が進んでいく構成が取られていて、なかなか核心へは入らないという方針を貫いている。この静かで、全体を横目で見ながらの展開は、好ましい物語を紡ぎだしているのだ。

 

Img_1077 たとえば、このようなエピソードが重ねられていくのだ。「以前ボローズ署にフレードルンドという老警官がいました」ステファンが話しはじめた。「固くて、融通の利かない、そのうえ仕事の遅い人でしたが、すばらしい捜査官でした。あるとき、いつになく機嫌のいいときでしたが、こういうことを言ったのです。私はいまでもはっきり憶えています。『手に明かりを持って歩くのだ。そして目の前を照らすのだ。足をどこにおくかを見るために。だがときどきは道の端のほうも照らせ。Img_1081 そうすれば、どこに足をおいてはならないかがわかる』彼がなにをはなそうとしたのか、私にははっきりわかりませんが、どこに中心があるのかを見るにはあたりを見なければならないということを言っていたのではないかと思います。いちばん重要な人物はだれか、ということを見なければならないと」「それをいまわれわれのいる状況に当てはめてみたらどうか? おれは今日話しすぎた。聞く側にまわりたい」

 

Img_1085 毎年この時期になると、昨年度と今年度との頭の中の切り替えが必要になってくる。大学という職場は、変に専門に偏っていたり、逆に専門でないところに時間が取られていたりして、上記のように、どこに中心があるのかが見失われてしまうこともよくあることだ。もちろん、頭と足と完全に引き離してしまうことはできないのだが、付かず離れずが必要になってくるのだ。ステファンのように、舌がんになると、人生が変わって周りが良く見えるようになるのだろうか。

 

Img_1079 この点で、毎年恒例となっている先生方との群馬合宿は、良い習慣となっている。半分はフォーマルな行事なのだが、公費は一切出ないことから、もう半分はインフォーマルな交流となっていて、良い習慣だと思われる。周りをみる習慣を取り戻す良い機会だと思われる。

 

Img_1056 昼に東京駅出発の「とき」を目指して、ゆっくりと家を出る。このゆったり感はやはり温泉であるということであり、また春休みにようやくはいるという季節感のせいでもある。新幹線では、定番の大和地方特産の柿の葉寿司を食べた。この甘酸っぱい味と、コンパクトな食感は、ときどき呼び起こされる感覚なのだ。

 

Img_1072 上毛高原駅では、H先生とAさんに合流する。連絡のよい猿ヶ京行きの路線バスで、30分ほどの旅程だ。H先生は、ちょうど現在NHKの「100分で名著」という番組に出演中で、わたしたちにテキストを配ってくださっていた。松本清張をめぐるエピソードが面白くて、昨日の教授会の帰りに一気に全部読んでしまった。226事件で、宮城へ入った中橋中尉の解釈がいくつかあって、謎として残っている部分の多いことがなかでも印象に残っている。

 

Img_1066 湯宿温泉では、取るものもとりあえず、まずは温泉に浸かり、まだ誰も入っていない新湯に、ぐっと身体を伸ばした。この数ヶ月の疲れとの別れを惜しんだのだった。それで急速に、血行が良くなり、すぐに空腹感をうったえ出したのだ。けれども、まずは公式行事をいくつか済ませなければならなかった。その後、ようやくにして夕食から懇親会へ入ったのだった。

 

Img_1068 ある先生は、このような会を称して、昔の左翼系の山奥合宿に喩えていたが、他の先生は、貴族趣味の温泉行楽だと言い、この温泉合宿への評価はまちまちなのだが、わたしにとっては、このインフォーマルなところに、この会の本質があるように思える。インフォーマルなところでは、日頃の凝り固まった頭もすこし解れて、複数の解釈が成り立つかのように思えてくるから不思議なのだ。Img_1058 そして、なによりも、昨年度のわたしから、来年度のわたしへの橋渡しが行われ、ちょっと後の自分が見えてくるような気持ちになるのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。