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2018/01/14

修士論文の面接審査

Img_0658 今読んでいる北欧ミステリー「警部ヴァランダー」シリーズの中の1冊で、警部が一つの事件を終えて、疲れ切って帰る場面がある。疲れてはいるものの、事件が解決されて、多少の完結した満足感は存在しているはずである。同僚の女性刑事が呼びかける。「どこへ行くんです?」「家に帰って寝る」ヴァランダーは言った。「疲れたよ。それに悲しい。すべてうまくいったのだが」彼の声に感じるものがあったのか、彼女はそれ以上質問しなかった。というシーンが出てきて、まさにこんな感じだなあと思ったのだった。

 

修士論文を読んでいる最中は、気分も高揚してきていて、この1年にどれだけの議論をしてきたのか、と面接審査を行いながら思い出にふけるのだ。今日一日、ずっと付き合ってくださった副査のK先生はブータンから帰ってきて、そのあとずっと修士論文を読んできてくださった。メモ用紙が溢れるほどにたくさん挟まった論文フォルダーを抱えていらっしゃったのだ。面接審査では、互いに声をかなりあげて、説明し対話を行い、議論を楽しむのだが、それが済むと、沈黙と空白の時間が訪れるのだ。

 

このとき、ちょっとなのだが、物悲しくなるのだ。何というわけではないのだが、達成感と裏腹の関係にある物悲しさなのである。論文作りに関心のない、陽気な人には理解できないものだ。すべてうまく行ったはずなのに、何と無く感ずる感情があるのだ。ある種の虚脱感、空虚感なのだと思う。今まで満たされていたものが、一挙に外へ出てしまって、ここには残されていないのだ。論文としては満たされているのだが、残された頭と肉体は空虚なのだ。

 

Img_0660 このままずっと平行線を続けてくれ、交わることなく、このままずっと走り続けてくれ、そうすれば、この感情からは自由になれることはわかっている。けれども、いずれ終わらなければならないときが来ることはわかっている。だから、メソメソせずに、さあ次の言葉へ移っていこう。そうすれば、自分の外の世界のあることも遂には理解できるし、自分の内の世界から逃れることもできるに違いないだろう。

 

今回提出された論文は、完全にその通りの題名ではないのだが、次のような内容のテーマだった。

 

公立図書館における公共・民間セクターの役割

日本のPFI事業のValue for Money

ワーク&バランスと生活時間の変移

オペラ活動とNPO法人

宗教における社会貢献活動

スローシティとまちづくり

行政信頼とソーシャルキャピタル

ソフトウェア産業と成長要因

六十年代安保と政治

中国の対日経済交流

 

でも、きっと2、3日が経つうちに、修論を終えた方々は、きっと警部ヴァランダーが次のように感じた境地にまた再び舞い戻ってくることだろう。「ヴァランダーはふたたび一人になった。いままでにないほど、リードベリ(ヴァランダーの相談相手だった先輩刑事)がいないことが残念に感じられた。『どんな場合にも、あと一つ質問があるはずだ』いつも繰り返し聞かされたリードベリの口癖だ。さて、いま、彼がまだもう一つ質問できるとすれば何だろう? 何が残っている? ヴァランダーはそれを探した」というところではないかと思われる。

 

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。