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2017年11月に作成された投稿

2017/11/14

富山県美術館へ来ている

177095296_unknown 今年、旧富山近代美術館が新しくなった。富山駅近く、運河の再開発地域に、「富山県美術館」として開館した。その報道の中で、これまで美術館が19世紀からの近代椅子のコレクションを行なって来ていることを知った。現在、わたしは放送大学の授業で、近代椅子を数多く取り上げ、これを経済社会的な見方で再構成している。177095616_unknown 講義室内では、教育のためなので、これらの近代椅子を見せても著作権フリーなのだが、実際には椅子デザインにも著作権があって、テキストに椅子を出すにも、許可が必要で、もし映像をまとめて撮るとしたら、どうしようかと考えていた最中だった。177096944_unknown それで、富山県美術館のコレクションをどのような形で大学授業に使うことができるのかを確かめようと、出張し取材することになった。ちょうど、コレクション展ということで、170種類ある椅子のうち、3分の1ほどが実際に展示中だった。この展示が本日最終日で、明日からは展示が変わると電話で知らされたのだった。ピンポイントのチャンスということだ。

 

177098592_unknown 昨日は、幕張のCスタジオ(放送大学の制作棟にはABの二つのラジオスタジオしかないのだが、もう一つ予備的に使われる研究棟にあるスタジオ)で、交通経済学のA先生と来年度からの授業科目「都市と農山村からみる身近な経済」のラジオ収録を行った。177097632_unknown A先生は秋にルーマニア出張に行って、ヨーロッパの交通事情調査を行なっていたので、なかなか打ち合わせする機会はなかったのだ。けれども、先日亡くなったH先生のゼミを通じて、すでに十数年議論を行い合った仲間なので、心配はなかった。収録にはすっと入って行けた。わたしの1段落を取り直しただけで、あとは初録りで予定していた時間を残して早々と終了した。

 

177099872_unknown その足で、東京駅から北陸新幹線で富山へ向かう。横浜へ帰るよりも、早く富山の宿泊所へ入る。このホテルが、ちょうど路面電車の停留所前にあって、数分に一度通り過ぎるガタガタピシャという音が生活のリズムにあっている。音が聞こえるたびに、窓際へ行って眺めてしまったのだ。

 

 橋をこえて、音が聞こえてくる

 グーという軌道を通じて伝わる音と

 ガタガタピシャという空気に伝わる音と

 

 姿をあらわす外側の恥じらいと

 きらびやかな内部の照明と

 

 客ひとりひとりの心を集めて

 包み込む光線の集団が通り過ぎていく

 夜の冷たさの中で

 そこだけが温かいものを感じさせる

 音と光を超えて、橋を渡っていく

 

177095776_unknown あくる日の当日、激しい雨になった。天気予報によると、途中から雪に変わるそうだ。市内ループ線の新型電車に乗って、富山駅へ出る。ここからの開発地域には、散歩歩道が川沿いに整備されている。その曲がり角に美術館もあり、運河の再開発地域もあるのだ。水平線と垂直線の際立った近代建築型の美術館へ着く。二階の迫り出した一階のエントランス、二階・三階の回廊式展示、屋上の庭園という典型的な美術館建築だ。それに、周りの魅力的なモニュメントが配置されていて、建物と環境全体が美的空間を強調している。

 

177095872_unknown 瀧口修造コレクションも藤田嗣治の特別展示もジャスパー・ジョーンズの絵もあって、魅力的な美術館なのだがそれらを通り越して、さっそく3階にある近代椅子の展示会場へ直行する。4段のひな壇が30メートルほど大会場に作られていて、それぞれ横に13脚ほどが乗せられている。177095920_unknown 一望で40脚あまりの名作椅子を眺めることができる仕組みだ。右上段のトーネット椅子に始まって、左下段のポストモダン椅子まで並べられている。椅子は見るよりも、座って感じるものなので、この方式はどうなのかと思われるのだが。

 

177095840_unknown したがってそれに加えて、広いフロアには、さらにブロックごとに分けて合計15脚ほどの椅子が配置されている。少し身近におりてきたというところだ。マッキントッシュ、リートフェルト、ブロイヤーと続く。そして、5脚ほど座っても良いとする椅子が置かれている。本当のところ、ここが一番重要なのだが、5脚とはちょっと出し惜しみという感は免れない。177096064_unknown 全部座れる形で展示して、どうしても壊れやすいものだけ、ひな壇に飾るべきなのではと思うのだが、管理の側からすれば、そうもいかないのではと思われる。ガウディーのベンチ、イームズの安楽椅子などはなかなか触感を楽しむところもないので、これらに座って、数時間過ごしてしまったのだ。

 

177096176_unknown さて、このように美術館で、近代椅子の展示を行う理由・意味にはどのようなことが考えられるのだろうか。一つは、当たり前なのだが、一覧展示の魅力だ。比較と歴史を一望できる点だ。「椅子の世界」というものが、個々の椅子でしか、わたしたちは感じて来なかったのだが、177096352_unknown このように一覧展示されると、すべてが一団となって、一つの世界を形成していることを知るのだ。名作椅子とは、どのような椅子のことを言うのだろうかということがわかるのだ。

 

177096400_unknown 「万物照応」というボードレールの詩がある。感性があちこちの椅子と感応して、自分の五感が部屋全体に張り巡らされる。一つの椅子に座っただけなのに、感性は60以上の発達を見せるのだ。椅子の世界という象徴の森に入り込んだかのようだ。このように詩を作り変えても、許されるだろう。

 

 人は椅子の間を静かに歩む

 象徴の森をゆくが如くに


 遠くから響き来るこだまのように

 夜の闇 昼の光 の深い調和のなかに

 五感のすべてが反響する


 栗の木理のような鮮烈な感触

 オーボエのように優雅で 拍子木のように枯れて

 甘酸っぱく 豊かに勝ち誇った 肘木の触わり


 無限へと広がりゆく力をもって

 紫檀 杉 楢 桜の木の香りが

 知性と感性の交感を奏でる


177098992_unknown コーヒーポットは持参したけれども、昼食は持ってこなかったので、すでに3時をすぎてしまったのだが、遅めの昼食を近くのコーヒーショップで食べることにする。美術館の向かいが江戸時代からの運河を復元した環水公園になっていて、広い敷地と運河に面して、公共の施設が並び、その中で単独で商業施設のSBコーヒショップが中央に迫り出している。177099152_unknown ちょうど紅葉を背景として、環境を加味したコーヒーショップとしては贅沢な配置を見せている。コーヒーだけでなく、プラスα部分がかなりある喫茶店であると言えよう。店内は「世界一美しいSB」というキャッチコピーに魅せられた観光客で賑わっていた。

 

177099056_unknown さて、師走へ向かって、忙しくなる季節だ。例年通り、今回の出張には、学生たちから送られてきている論文草稿を持参した。毎晩、1編ずつコメントをつけて送り返している。今年も力作揃えで、すでにA4ページの100枚を超えるものも送られてきている。これらが、2、3回やり取りされて、完成されていくのは、何か不思議な文字の世界を見ているようだ。線がいっぱい描かれ、その中でも何か選びとられた、活気のある線たちだけが残っていくのを見ている。177474048_unknown 花火が打ち上げられて、それらがずっと空高く線を描いて、美しい線画が大空に出来上がるように、学生たちが打ち上げてくる論文の描く軌跡を修正しつつ、その軌跡が意味ある美しさになるように、こちらも線を描いて返しているのだ。

 

177096736_unknown というようなことと同時に、わたし自身の論文も線を描きつつあるのだが、しかしそれは、他者の論文を直すようにはうまくいかない。こっちを塞ぐと、あっちから漏れてしまうし、あっちを埋めるとこっちが裂けてしまっている。沖縄で買ってきたCDから、詩人山之口獏の歌が響いてくる。

 

 

 靴にありついて

 ほっとしたかとおもうと

 ズボンがぼろになっているのだ

 ズボンにありついて

 ほっとしたかとおもうと

 上衣がぼろぼろになっているのだ

 上衣にありついて

 ほっとしたかとおもうと

 もとに戻ってまた

 ぼろ靴をひきずって

 靴を探し廻っているのだ


という、「動作の連鎖」が続いているのだ。ボロボロがホロホロになったり、ボロボロがポロポロになったりして、連鎖が幾重にも循環する。

 

 

 

 

2017/11/01

「社会経営研究」「社会経営ジャーナル」第5号のβ版発行!

Img_9202 沖縄から幕張へ帰ってきた。毎日、ポットへコーヒーを入れてから、1日が始まるので、那覇にいても、幕張にいても、それほど日常は変わらない。悪い夢を見た日は違うのだが、午前中には原稿に向かい、午後から活動が始まるというサイクルの内にあれば、どこに居ようと大差ない。はや11月となり、遅ればせながら来年度から始まるラジオ科目「都市と農山村からみる身近な経済」収録の季節が巡ってきた。Img_9204 2年間かけてきたテキスト作成も最終段階になってきて、初校、再校、フレンドリー・アドバイスなどと3回目の点検も済み、今回は放送原稿を2回作成したから、少なくとも5回くらいは内容の検討を重ねたことになる。悪い夢とは、検討を重ねるときに見えてしまうから始末に悪いのだが、もう放送の段階では迷っている暇はないのだ。研究室の窓からの景色も変わり、紅葉が目立つようになって来た。

 

Img_3476_2 制作棟3階にあるRBスタジオへ向かう。ラジオスタジオは幕張にABと2つあり、きょうは小さな方のBスタジオでの収録だ。調整室では、島根大学のI先生、ディレクターのK氏、録音技師の3人が待っている。日頃、中国へ出張したり気管支炎を患ったりした人たちが、決められた日時にぴったりと一堂に会すなどということが起こることが不思議な現象だと思えてしまう。

 

Img_3079 今回の科目録音では、すべて対話形式で収録を行うことにしている。4人の講師が入れ替わり立ち替わり、2コマずつ収録し、攻守を変えて、1コマずつそれぞれ話す役と聞き役とを務めることにしている。一回は専門を語り、一回は相手の話を聞くということだ。とくに、聞き役は重要で、話す役からうまく話を引き出さなければならない。Img_3080 話す方はこれまで書いて来たことだから、それなりに道成りで話していけば良いのだが、聞き役は聴取者・受講者たちの代表という意味があって、どのように決められた話をうまくわかりやすく聴きだすのかが問われる。日常にはない、きわめて面白い役どころなのだ。もっともうまくいけばの話で、うまくいかなければ、悪夢になるのだが。

 

Img_3479_2 金魚鉢のこちら側と向こう側とで、また金魚鉢の中では向こう側のマイクとこちら側のマイクとで、次々と合図とおしゃべりが繰り返されていく。音楽が始まって、ディレクターがキューを出してからの互いの共通意識の世界を彷徨する緊張感はたまらない。シナリオ案は一応作っておくのだが、それは保険のようなもので、主としてアドリブ部分を一生懸命考えつつ、番組は進んでいく。Img_3075 アドリブが続かなくなったときには、このシナリオへ帰って来て、対話者とレベルを一致させて、さらに先へ進んでいく。ウォーキングを2人で行なっているようなものなのかもしれない。一緒に歩き、前へ行ったり後ろへついたりしながら、2人とも常に足を前へ出していくのだ。I先生は初めての経験だとおっしゃっていたが、コンビネーションはとてもうまく行って、少し削っただけで、初取りで済ますことができたのだった。

 

20171102_232436 沖縄からのお土産の35珈琲と、牧志市場で購入したサーターアンダギーを、「社会と産業」カンファレンス室のAさんに渡して、早々に幕張を出る。きょうは、研究同人誌の「社会経営研究」と「社会経営ジャーナル」の再校を行なって、とりあえずβ版を発行する日なのだ。先日、執筆者へ校正を依頼しておいたメールが続々と届いている。Kさんは85歳を過ぎているのだが、校正原稿をプリントアウトして、修正点を書き出して送ってくださった。明日からは奈良を来訪する予定の忙しい中、校正原稿を送ってくださったのだ。他の執筆者も編集者たちの懸命の編集に耐えて、寛容の精神を発揮してくださっていて、感謝の言葉もないくらいだ。

 

20171102_233045 校正段階で依頼された中には、編集委員会の趣旨に合わないところもあり、そのことで執筆者の意にそぐわないことも出てきてしまうかもしれないが、その場合には、三校の段階でもう一度連絡をお願いしたい。β版の良いところは、直しながら発行できる点であり、紙版の雑誌では考えることができない発行形式が可能になるのだ。夜遅くになってしまったが、どうやら今年もようやく発行にこぎつけたことを執筆者と編集者と読者とともに喜びたいと思う。

「社会経営研究」「社会経営ジャーナル」第5号β版はこちらから

 

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。