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2017/09/03

急勾配の坂道を自転車で飛ばす

レンタル自転車を借りることができるというので、観光協会へ行く。保険には入っていないので、自己責任でお願いいたしますというのだが、それは借りたわたしのことを案じていってくださったのか、自転車のことを心配していったのか、つい聞くのをためらってしまった。

Img_8386

山の中の道路なので、一直線に続いている。それがなだらかに数百メートル続くので、下から見上げると、大した坂ではないように思えた。それが間違いだった。電動付きの自転車があったらと、途中で振り返ってみたが、すでに坂道をだいぶ上がってきていた。Img_8399

ちょっと休憩。山籠りして、すでに数週間経つ。この間の稲の成長ぶりは大したもので、すでに頭を垂れ始めている。そして、これだけの高地になると、稲よりも蕎麦畑が目立つ。稲穂よりも高く育ち、一面白い花を咲かせている。ずっと向こうの山までも達するかのように、白い絨毯が敷き詰められている。

 

Img_8360 最近では、スズメ除けの様々な機械が発達したので、案山子の姿をすっかり見ることがなくなったのだが、たまたま休憩した近くの田んぼには、それなりの表現力を持った立派な案山子が立てられていた。Img_8362 こっちの田んぼはダメだよ、あっちの田んぼもダメだよと聞こえるようだった。シェーの姿勢が標準形で外向的なものが多いのかと思ったら、意外に内向的な案山子もいることに気づく。

 

Img_8388 さらに目的地は遠い。老人ホームがゆったりと現れる。そして、高級ホテルに配給車が次々に入って行く。この辺も、坂道で猿たちが戯れている。Img_8369 ボスザルともなると、自動車も避けない。今日は、クマが木に登っていました。と木工工房につく早々、椅子作家のY氏がおっしゃった。

 

Img_8371 じつは訪問の理由があるのだ。7月に訪れた時に、当地に忘れ物をしてしまい、それをいただきに来たのだ。ということにあるのだが、もちろんそれ以上に、再びお話を伺いたかったのだった。Img_8372_2 Y氏の椅子に囲まれて、1時間ほどおしゃべりを楽しんだ。5月にヒアリングを受けていただいてから、7月にはテープ起こしした原稿を見てもらっていたのだ。それで、いくつかのさらに聞いておきたいことがわかってきて、このことが気になっていた。

 

Img_8373 ヒアリングのときに、「作っていて楽しい」、という話をされていて、この「楽しい」という意味は、椅子を鑑賞したり座ったりする利用者の楽しさとは、明らかに違って、制作者としての楽しみということになるだろうことはわかっているのだが、それでは実際にどうなのだろうか、という質問をおそるおそる行ってみた。

 

Img_8416 制作者としての楽しみは、制作者それぞれで異なるのだろうが、と慎重に前置きして、Y氏の場合には、「形に現れてくる」ことだとおっしゃるのだ。これは聞くものにとっては意外な展開だ。制作者は自分の図面をひいて、その通りに椅子を作るから、形はすでに椅子ができる前には図面の中に、あるいは図面を作らない人でも、頭の中にあるはずである。だから、むしろ図面通りいかなかったり、自分の頭に描いた通りに行かなかったりすることは、制作者にとってはストレスになるはずだとわたしたちは思いがちである。Img_8409 ところが、そうではないと、Y氏はいうのだ。じつに、まさにここを聞きたかったというところに直ちに突き当たったのだ。ここで、楽しめるという境地がありうるということは、たいへん興味深かったのだった。

 

Img_8423 ヒントは、機械でできることなら、予想通りの製品ができないとストレスになるかも知れないが、けれども、ここが手作りの違うところだ、という確信にあるのだ。予想通りの製品ができないことの方が、楽しいのだ。近代がスベスベで、均質でなおかつ規格品を求めて来たという歴史をひっくり返す言葉だったと思う。

 

Img_8418 Y氏の作り出す椅子に座っていて、最近気のついたことがあった。山籠りのここ数週間、ずっと彼の椅子に座っていたのだ。それで、座り心地はぴったりで申し分ない。けれども、もう一つの面白い現象を発見したのだ。話は入り組んでいるので、わからないと感じた方は飛ばして読んでいただければと思う。

 

Img_8417 それは、Y氏の椅子の脚が八角形で作られているというところにある。じつは、椅子の脚には、貫(ぬき)が通っている。ふつう、直角に縦横二本の貫が一本の脚から出ている。これで、脚の二面が取られる。そして、縦横の貫に挟まれた一面があるので、椅子の構造では、合計三面がそれらに取られている。八角形の残りは五面ということになる。

 

Img_8420 ここで、わたしの癖なのだが、仕事をしていて、椅子の脚に触ることを絶えず行っているのだ。そして、いずれ頭に神経が集中して来て、疲れが溜まってくるのだが、そのときに、手で脚を上から下まで触ると気分が落ち着くのだ。おそらく、木に触っていることで、手へ血液が回るからかもしれない。最初、人差し指と中指で、脚の面をなぞっていた。そのうち、薬指、親指、小指とそれぞれの面があることに気づいたのだ。つまり、椅子の構造に使われている三面と、5本の指に割り当てられた五面とで、ちょうど八角形に当てはまるのだ。

 

Img_8421 それがどうしたと言われるとじつに困るのだが、限りなく緩やかな何らかの法則性がそこに存在しているかのような気になって来て、仕合せな気分になったのだった。もちろん、Y氏の側から、なぜ八角形にしたのか、という理由はあるのだ。それは、手で握るというときに、丸だと滑ってしまうが、八角形だと握りやすいということなのだ。何らかの引っ掛かりが必要なのだということだった。たぶん、手で触る感覚の問題であることは共通しているのだ。

 

Img_8394 すっかり話し込んでしまった。自転車のレンタル時間が迫って来たので、超スピードで坂道を飛ばす。すでに9月の風だ。風除けのヤッケを通して、寒さを感じさせる空気が染み込んでくる。道端の猿たちも、そろそろ冬仕度に入ろうかという早めの算段をしているようだった。

途中、「わっぱらんど」という、子供たちが水遊びをし、樹上の家を楽しむ場所を通ったが、当然のように閑散としていて、清冽な水だけが変わらずに流れていた。いよいよ、田舎の生活を切り上げて、都会の生活へ戻らなければならないのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。