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2017/09/24

グレインノート椅子展の最終日

Img_8615 今日は昼からずっと、グレインノート椅子展展示の最終日にお付き合いさせてもらった。ご主人のS氏と一緒にギャラリーの展示と訪れる人びととの歓談を楽しんだ。ギャラリー(gallery)の語源は、「回廊」ということで、本来は人びとが行き来するような空間だったのだ。だから、単に美術館の部屋のような閉ざされた場所ではなく、今回のように、松本市の中町通りから歩いて、ちょっと入ってくるような感覚が、この言葉にはあるのだと思われる。この場所は、窓からは道を通る人びとがよく見え、回廊的な要素があるのだ。

 

Img_8498 仙台から来たという、女性2人の旅行客は、まずは「異様」な形をしたT氏の「骨盤椅子」を見つけ、腰の締め付けを試していた。展示というものを考えさせられる行動だった。椅子なので、最後は座って見てもらい、お尻の感覚を試してもらうのが主眼なのだが、その主目的に到達するには、まずは視覚的な要素も大切なのだと実感させられたのだった。

 

Img_8488 名古屋から来た中年の女性は、ざっとほとんど全部に座ってみた後、自分のお尻にぴったりする椅子の感想を述べてくださった。パソコンを使用する関係の仕事を持っているようだったので、仕事椅子のイメージで座って回ったようだった。Y氏の編み椅子、A氏の健康椅子など、横から見ていると、背筋がぴっと立ち、お尻がすっぽり入って、見るからに身体にぴったりの椅子だ、という感触が周りに伝わってくるようだった。お尻モデルになると良いのではと思うくらいだった。これらの椅子の販促のために写真を撮っておくべきだったと後悔している。つまり逆に、椅子向きのお尻というものがあることを知ったのだ。

 

Img_8485 椅子展の中でF氏の椅子は、センスの良さが目立つ。F氏の大工仕事のファンだという、男性が現れて、コタツに使うようなF氏の和風椅子を写真に収めていた。おそらく、F氏に以前、改装を依頼したことがあり、その仕事振りに魅せられた方のひとりだと思われる。そういえば、先ほど、キッシュプレート・ランチを近くの喫茶店Chiiannで取った。まだF氏にはお会いしたことはないのだが、じつはChiiannの店全体のデザインをF氏は引き受けていて、その大工仕事の一端を見せていただいた。

 

Img_8730 F氏は最近、店の入口近くに据付ける小さな棚を持って来たのだそうだ。この写真ではよくわからないかもしれないのだが、遠目に見ると、3段の棚で、一番下の棚と二番目の棚の間の縦幅が、ずいぶんゆったりと取っていて、二番目の棚と三番目(一番上)の棚との間の縦幅は狭く作られている。この場所はギリギリのスペースなので、たくさんのモノをできる限り置きたいと思ってしまうところなのだ。しかし、下へ行くほどゆったりと作られている。なぜなのだろうか、と考えてしまった。Chiiannのご夫婦に聞いたのだが、F氏は別に理由は言わなかったのだそうだ。

 

Img_8725 その答えは、近くに寄って見るとわかるのだ。つまり、目線の問題だったのだ。狭いスペースなので、訪問者が上から立ったままで棚を見たときに、下へ行くほどゆったり縦幅を取っていないと、棚の中の展示物が上の棚で隠れてしまうのだ。つまり、大きなものを下の棚に入れるために、下へ行くほど縦がゆったりとっているのではないのだ。全ての棚の中のものが、ここに立った人に見えるようになっているからなのだ。なるほど、という工夫だ。F氏は、このようにちょっとしたところで、使う人の身になって考えることができる方らしい。ファンができるわけがわかった気になった。

 

Img_8732_2 もう一つこの棚には、隠された工夫が見られた。それは棚の脚だ。この点はChiiannのご主人も気がついていて、柱にギリギリに棚が据え付けられているので、脚の外側の部分は切り落とされていて、内側にだけ脚がつけられている。けれども、この脚があるだけで、安定感がぜんぜん違ってくるのだろう。

 

Img_8467_2 さて、グレインノートに戻って、夕方には展示された椅子を回収するために、東京からS氏がK氏と一緒にやって来た。デザイナーのS氏は今年から椅子展に参加した。それで、これまでの伝統的な椅子とは、また趣向の異なった椅子を出品していていた。一つはこのグリーンの箱をイメージさせる「箱椅子」だ。Img_8466 もう一つは、動物の象をイメージさせる「縞々椅子」で、白い木の木目の組み合わせが美しい。伝統的な椅子と、何が異なると、このようなデザイン主体の椅子が出来上がるのだろうか。ヒアリングを行った中で、その点を集中的に追究させてもらったのだった。たぶん、発想の方法が逆転しているところに、特色が現れていることはわかったのだが、さてそれをどのように言葉として定着できるのだろうか。今回も難問をずいぶんと抱え込んでしまったのだったのだ。

 

Img_8606 夕方になって、椅子作家の中では一番歳の若いT氏が最終日になってようやく展示する椅子を持って現れた。彼の椅子は人形物語の中で活きており、その世界でもっとも大きな作り物であるということで、独特の様相を持っている。聞くところによると身体が弱いこともあって、遅れることは常習的なことらしいのだ。作るということには、なんと様々なドラマを生み出すのだろうか。それで、20日に撮ったビデオと同様の視点で撮って、今回はT氏の椅子も入れて、Youtubeの映像を更新することする。彼の椅子がないバージョンと、彼の椅子が入ったバージョンの二つが出来て、それはそれで、今年の特色になったと思うのだ。意外なことに対する純粋な驚きの精神がここでは必要なのだろう。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。