« 椅子のコレクションを観る | トップページ | 海の多様性について »

2017/07/24

くずきりの贅沢

Img_2513 昨日、五条の「市川屋珈琲店」に座って、コーヒーを飲みつつ、京都で涼しさを味わうとしたら、どこが良いだろうと考えた。ふんぎりが悪いと思われるかもしれないが、もう少しの時間、京都滞在を延ばしてもよいと思い始めたのだった。Img_2511 五条から四条へ出る。六波羅蜜寺を通って、建仁寺へ入れば、苦もなく、暑さの中でも涼を取り入れた移動ができる。予約でいっぱいの喫茶店ヴィオロンの窓を恨めしそうに覗く。何といっても、この35度の最中の京都なのだ。水分摂取と休憩は必要だ。

 

Img_2514 日本史に登場していた場所が、次から次へと出てくる。けれども、静かな街歩きはここまでだ。栄西禅師の茶碑と茶の生垣をすぎて、建仁寺の正門をくぐり、花見小路へ出た途端、観光客が道全体を覆っている。Img_2515 警察官が出て、混雑をさばいているのが見える。街ごとに、人びとの様相が異なるのが京都だ。Img_2516

 

Img_2525 四条通りへ突き当たり、左を見ると、お目当の「鍵善良房」が見える。玄関の売り場を抜けて、一段上がったところに喫茶室が左右に分かれてあり、その奥に京都の懐の深さを表すような中庭があって、さらにその裏に茶室らしき家屋が続いている。Img_2523 この盆地特有の限りなく暑い京都を乗り切る一つの工夫が、これなのだ。つるりとしているがコシがあり、透き通った涼やかさをもたらす。これが、「くずきり」だ。

 

Img_2518 この切られた葛にどれほどの威力があるのだろうか。半透明の白い切れ端がひらひらと宙を舞う。そのまますぐに、口に運ぶわけではないところが凄いところで、器が二つに分かれて、その間をひらひら、ゆらゆらと、何と涼しげな浮遊が起こるのだろうか。

 

くずきりは、葛の入った氷の器から、蜜の入った甘味の器へ移っていくのだ。さらに、これを口へ持っていくころには、舌の先から喉の奥にまで、さらにゆったりとした甘さへの期待が満ちてくる。これら器と移動全体の世界観は、甘さの欲望によって統御されているのだ。もちろん、食べ物だから、料理人が甘さの世界を作り出す。けれども、箸を持ってからは、享受する側の世界だ。

 

Img_2521 なぜくずきりは贅沢なのかということが、ここにある。くずきりでの葛の役割は何かと改めて問うとじつはよくわからないところがある。葛には味がないのだから、甘味のみを味わうためならば、甘味の蜜そのものさえあれば、足りる。直接、蜜を飲めばよいのだ。なのに、なぜ葛を使うのか、ここで問題なのだ。贅沢を示す印なのである。涼やかさの源泉でもあるのだ。

 

甘味処のイメージからすると、まずお汁粉、ぜんざい、白玉だ。ここでは甘味の実体がいっしょくたに存在するのだ。これは夏向きではないのはないか。実体と分離された甘さの純粋さ、そして甘さと直接関係ないひらひらとしての、氷に浸けられた葛、この両者が口に含まれる、その瞬間に涼しさという虚構が作り出されるのだ。これは贅沢以外の何者ではない。冷たさと涼しさは、甘味の方になく、葛を媒体として伝えられるのだ。

 

「鍵善」では、涼やかさは甘さとともやってくる。これを期待するのは、京都の女性だけではない。男性もやってきているのを見たのだ。商店主らしい中年の男性がわたしの右奥に一人で座った。Img_2527 くずきりをするするとすすると、さっと帰って行ったのだ。このスピード感がくずきりには似合っているのだ。帰りの勘定を払い、入り口の両側にある黒田辰秋制作の箪笥を写真に納める。

 

Img_2530 さて、甘味の後はコーヒーだ。祇園から四条河原町へ出る。手前の高瀬川沿いにある喫茶店「ソワレ」は店内が暗く、静かな雰囲気が素敵で、このような人混みではオアシスのような存在だ。いつもはすぐに入れるのだが、やはり有名になると列ができる。時代が変わったのだ。前回と同様ここを諦めて、同じく高瀬川の少し上流にある立誠小学校跡のトラベル・カフェへ入る。ここで日記を書きながら、時間を十分に潰すことができた。

 

Img_2534 さらにおまけ。五条へ戻る道筋にあるガラス張りの古い喫茶店で、「冷やしあめ」の看板が出ていたのに誘われて、一杯いただく。生姜味が効いて、汗が引っ込み、さらに頭痛までも治ったのだった。Img_2540 この味は、関東にはない。駅に着いてから、いつものように、志津屋のカツサンド(夏なので、卵焼きサンドに一部変更されたもの)を購入して、心置きなく、新幹線に乗ったのだった。

« 椅子のコレクションを観る | トップページ | 海の多様性について »

日常生活の関係」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/65678990

この記事へのトラックバック一覧です: くずきりの贅沢:

« 椅子のコレクションを観る | トップページ | 海の多様性について »

『貨幣・勤労・代理人』(経済文明論)

  • “「貨幣・勤労・代理人」"

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。