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2017/05/25

なぜデンマークなのか!

Img_2166 先日、デンマークデザイン展に行ってからなのか、それとも、それ以前からなのか。とにかく、デンマークがわたしの周りに迫ってきている。一つは北欧ミステリーに夢中になったのがいけない。今がそうだ。昨日、大学で出席しなければならない委員会があるので、行き帰りの電車の中で楽しめると思って家を出たのだが、文庫本を鞄に入れるのを忘れるという失態があって、一日中物足りない日になってしまった。こうなってくると、中毒症状が出ているという状態だと思われる。

 

張本人は、北欧推理小説であることはわかっているのだ。北欧ミステリーの特徴は、かなり長いところにある。この長さの中で、さまざまなことが起こり、読者へも重厚な影響を与える。読み始めると、他の活動がパタッと止まってしまうから、デンマーク尽くしなのだ。とりわけ、通勤列車の中では、本を広げている時間が長い。幕張までの片道2時間半、往復5時間は頭の中がほぼデンマーク状態が続いている。

 

きっかけは他の北欧推理小説ファンと同じように、小説「ミレニアム」からなのだ。これは主として、映画とテレビドラマから入ってきたから、映画趣味の延長線上にあって、推理小説そのものに没入するとは異なった経験だったかもしれない。椅子の作家の方々と付き合うようになって、松本のSさんが木工の傍、北欧ミステリーが良いのだ、とおっしゃったのが、やはり書籍版への没入のきっかけだったと思う。そして、我がホームライブラリーであるK大図書館には、おそらくかなりの北欧ミステリーファンがいて、書棚にズラっと揃えていてくださったことが効いている。

 

Img_2167 これらを渉猟する中で到達したのが、ユッシ・エーズラ・オールソン著「特捜部Q」シリーズだ。映画で言えば、シリーズものは当たり外れがあって、ミステリーでシリーズが成功している例はあまりない。このシリーズも、映画が作られて居るが、別物だと思われる。テレビの「ミステリー」チャンネルをよくみるが、ここでは、オックスフォードものや、ケンブリッジものがあって、これらには必ず有名な建物や路地が出てきて、観光で行ったところを思い出して見てしまう、というドラマはいくつかある。これをミステリーとしてみているのかは疑問が残る。これと同じで、書物ミステリーと映画ミステリーは同一視できない。

 

特捜部Qシリーズは現在のところ、6冊が出ている。デンマーク社会の置かれている状況というものが伝わってくる、この現代性が秀逸だ。主人公が島をいくつか通って車を運転していくと、スウェーデンの警察署についてしまう。言葉は違って、民族も異なるが付き合わなければならない状況が見えてくる。それから、第5弾「知りすぎたマルコ」では、マルコという少年がロマの泥棒集団で育って、事件に巻き込まれていくのだが、このような大親族を形成する泥棒集団が容易に、イタリアを始め各国をめぐって住むことができる。これは、現代のEU社会の特質を表している。デンマークでは隣に居る人びとの民族性がまちまちで当たり前なのだ。このような現代的特徴を持ったデンマーク社会を的確に描いている。

 

特捜部Qで最も面白いところは、主人公の警部カールと謎の過去を背負って居る助手アサドの掛け合いだ。それに加えて、女性の同僚ローセが多重人格者で、このすれ違い、軋轢、性格の合わないところがかえって凄いところなのだ。どうしても、チームを組織論的にみてしまう、職業病的なところがあるのだが、三人ともに、かなり個性的で、性格に欠陥を持っていて、それぞれ自分勝手に捜査に望むところがある。このバラバラ感がたまらない。わたしたちは日本社会にあって、かなり規律の厳しい社会にあることを自覚している。ところが、世界は広い。ちょっと羽目を外しても、十分に成り立つ社会があるのだ。どの程度まで、警察官が羽目を外しても良いのか、どの程度ならば、法的に許されるのか、道徳的に許されるのか、ギリギリのところが描かれている。

 

文脈の中で面白さが出てくるのであって、このように切り取ったとして、何が面白かろうとは思うのだが、ちょっとだけでも書きたくなってくる。アサドは言う。

 

「カール、私は犠牲になった女性がアンヴァイラーの恋人だったという話そのものが信じられません。それが事実だったとして、なぜアンヴァイラーは彼女を殺さなければならなかったんです? 動機はなんです? 報告書によると、かっとなって殺害したと見られています。でも、何を根拠としているんでしょう? 事件当時、船から叫び声がしたそうですが、誰の声かはわかっていません。ひょっとしたらミナ・ヴィアクロンはホイットニーに合わせて歌っていただけかもしれません。カール、市場でラクダがいっせいに吠えるのを聞いたことありますか?」カールはため息をついた。まったく、ろくでもない事件だ!しかも、やらせてくれとこっちから頼んだわけでもない。それなのに、どうしてこんな事件のことを、いつまでああだこうだと言わなくちゃならないんだ!

 マサドはしばらくの間、無精ひげの生えた黒いあごを手で支えていた。「アンヴァイラーの前科を見ると、それほど馬鹿でもないんじゃないですか? どれもかなり複雑な犯罪ですよね」

「ああ、少なくとも最後のネット取引の詐欺はそうだな。だが、その事件でこいつは投獄されたんだよ」

「それでも、カール、馬鹿だとは言えませんよ。それなのに、コペンハーゲンに自分から舞い戻ってくるなんて、変だと思いませんか? 事実だとしたら、わずか一年半前にこんな方法でひとり殺害しているんですよ。おまけに、知人にマルメの住所を教えたりするでしょうか? ありえません。カール、いいですか、飼い葉桶の前にいるラクダは子供を産みません」

 カールは両の眉を引き上げた。やれやれ、時間がかかったが、あのアサドがようやく帰ってきた。わけのわかならないラクダのたとえ話がまた聞けるようになった。

 アサドは辛抱強くカールを見つめていた。「カール、わかっていないんですね。何かが根本的に間違っているときに、そう言うんですよ」

 カールはうなずいた。「オーケー。つまり、目下のところ、おまえはあらゆる点からアンヴァイラーは無実だと考えているわけだ。そうだな?」

 「はい、突然ラクダがもう一頭やってこない限りは」

 ローゼはロブスターみたいな色になって戻ってきた。その首から上ときたら、まるで強風にあおられたドイツ国旗みたいだった。上のほうでははためく黒い髪と黒いマスカラ、その下にロブスター色の顔、さらにその下には黄色いスカーフ。

 「おや、いい色になったじゃないか、ローセ」カールはそう言って、アサドの隣の椅子を指した。五月の太陽は油断ならない。ローセのような青白い肌には容赦なく照りつける。明日になったら痛いぞ。注目されること間違いなしだ。

 「ええ」ローセは燃えるような頰に手をやった。

 

Img_2168 この三人は、個人としてはバラバラで、それぞれ好き勝手をやっているように描かれている。けれども、そのバラバラに行っていることが、いずれ結びついてきて、集団としてはチームとしては、成果を上げてしまう。このような組織論的な理想状態として、特捜部Qは描かれていると思うのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。