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2017/05/27

クラフトフェア松本でヒアリング調査を行う

Img_7798 526日、27日にかけて、松本市のクラフトフェアへ行く。今回のクラフトフェア松本はこれまでになく、混雑が激しかったような気がする。もちろん、出品応募する作家も増え、わたしを含めリピートする観客も増えていると思われるので、展示される作品の質は確実に高まっているし、見るだけでも楽しいという要素があることは確かだ。

 

Img_7898 だから、このあがたの森公園で行われるクラフトフェアの本体は今後も色々な意味で発展を続けることは間違い無いだろうし、今後もフェアというものの持つ周辺の消費者を惹きつける、フェスティバルとしての魅力は薄れないだろう。けれども、そうは言っても、何となくフェアそれ自体には熱気と同時に、ある種の冷たさも感ずるのだ。人があまりに集まりすぎるということに問題があることは間違いない。

 

Img_7900 経済学では、「集積効果」は素晴らしいということになっているのだが、これには二つの説が存在する。ひとつは「比較優位説」であって、フェアに他の地域に比較して、特別な優位が存在するから、行われるのだ、という意見と、もうひとつは伝統的「保護説」であって、フェアの地域に固有で昔から存在するものは保護していこう、という考え方だ。Img_7896 いずれにしても、長期的には「地域優位性」というものは他地域との接触が多ければ多いほど、薄れていく傾向にあることを前提としており、これからも優位性を保とうと考える点に特徴があるのだ。だから、人があまりに集まりすぎることは、この優位性を失ってしまう恐れがあるのだ。

 

Img_7778 人があまりに集まりすぎる問題に対して、クラフトフェア松本は、フェア・フリンジ(公式以外のフェスティバルの催し)という考え方を提示している点が注目される。具体的にみると、フェアは二日間しか行われないのだが、この周辺部では、5月中の長い期間にわたって、「工芸の五月」というフェア周辺部の催しが継続して行われている。こちらの方も、より余裕があって楽しめたのだった。Img_7781 中でも、昔の庄屋だった池上邸の蔵で行われていた、大曽根俊輔の乾漆による動物たちはリアルだった。蔵の前の小川には、写真のようなカバが浮かんでいたし、クジラも蔵に浮かんでいた。

 

Img_7760 先日紹介したように、今回のヒアリング相手の方々も、この「工芸の五月」催しの中での「はぐくむ工芸−子ども椅子展」に参加していた人が多い。また、前回「工芸の五月」のスタッフの方々へのヒアリングも行うことができて、親しみがぐっと増したのだった。フェアでは、いつも言っているように、観客と直角に交差して、歩くべしということにまさにフェア・フリンジは適合している。

 

Img_7763 それで、四人の椅子作家の方々のヒアリングを行ったのだったのだが、フェアの中だったので、なかなか集中して時間が取れなかった。結局は二日目の午後の最後の時間に集中することになってしまったのだ。それまでの二日間は余裕がありすぎたので、テントを回って、色々な方々と雑談をさせていただいた。中でも、女流の(というと、何となくイメージが湧くと思ったのだが)木工家で、Kさんのお話が面白かった。

 

Img_7804 テントを回っていて、Kさんのところに来たところ、ちらっと見て、中に並んでいる小物やテーブルの中で、一つの椅子に目が止まった。その一脚の座面が変わっていて、不思議な曲線を描いているのだ。このような曲線のことを木工家の方々は「R(アール)」と呼んでいる。わたしもようやく最近になって、日常用語の中で、この「R」という言葉を素直に使えるようになって来たところなのだ。この椅子の場合、写真を撮って来なかったので、言葉で説明することになるのだが、座面の「前が少し落としてある」ようなRの特徴を持っている。座面の先が直角に削ってあるのではなく、前が丸くかつ前のめりに座れるようになっているのだ。だから、座ると、ほんの少し前傾となる特徴を持った椅子なのだ。

 

Img_7922 さらに、椅子を横から見ると、座面がこちらからも緩やかなRを描いていて、お尻にフィットするように造られている。この横から全面にかけての曲面の素晴らしさが目立ったのだった。二度もこの椅子に座らせてもらったのだ。自分のお尻に感覚が残っていて、椅子ではいかに触感が大事であるのかが改めてわかったのだ。

 

なぜ前面が落としてあるのかという理由は、姿勢の問題であるとのことだった。わたしたちは、同じ椅子であっても、いろいろなところに重心を移して、様々な座り方をしている。深々とお尻を座面の後ろまで入れてしまう場合もあるし、横に足を投げ出して、背面を抱え込むような座り方をする場合もある。このような多様な座り方をする注文主に対して、椅子の作者はどのような対応を行うのだろうか。

 

前へ身体を倒すような姿勢で座る人は、働く人だ。仕事をするときに、ゆったりと座るより、多少前かがみになって、前方へ注意を集中できる方が良いだろう。前面を少し落とせば、座面へお尻を当てたときに、前の方で感ずることができる。仕事をする人にとっては、前面を少し落とした方が座りやすいと言える、とKさんはおっしゃるのだった。ここに、仕事を持って座る人と、椅子の作者との間に、何かが起こったのだ。ひとつの椅子には、それぞれのエピソードが貼り付いているのだ。

 

Img_7868 すっかりヒアリングの職人と化しているのだが、もうひと方、印象に残っている。番外篇でお話を伺うことができた。松本市の六区ストリートで、毎年「工芸の五月」催しが行われている。今回は、「素朴と洗練」と題して、目利きの方々が、生活の品々を出品し、言葉を寄せている。たとえば、デンマークのモーエンセンのモデルJ39が展示されていて、この椅子は「庶民のために、低価格で高品質な椅子を」と協同組合から依頼された椅子だと案内されていた。その中のM氏には昨年もこの場所で思わず喋りかけてしまった方なのだが、今年も幸運なことに偶然そうなり、質問を受けていただいた。

 

Img_7921 木工品の価格について聞いた。やはり、悩む問題だとしながらも、「最後はどこかで詰めなければならないですね」とおっしゃり、さらに少し考えたのちに、「その価格なら自分で買おうと考えるか」という価格ではないでしょうか、と教えてくださった。この答えは、これまでのヒアリンングでは無かった答えだった。意味深長な答えだと思う。たいへん参考になった次第で、感謝感激だ。

 

Img_7911 クラフトフェア二日目の午後には、各テントの中もだいぶ品が無くなり、終わりの近づいてきていることを知る。残した三人の方々の間を駆け抜けて、ヒアリングをこなした。テントを仕舞わなければならないところ、時間をとってくださった椅子作家の方々に御礼申し上げたい。

 

Img_7769 中町通りのグレインノートへ寄って、写真集をお返しして、ご夫婦に挨拶を行なった。少し休憩を取るために喫茶店「chiiann」へ行き、先日購入した木綿のトートバッグに書かれていたカステラをいただいた。右下に、Cの文字が見える。卵の種類がポイントなのだそうだ。Img_7772 Img_7770

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。