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2017年5月に作成された投稿

2017/05/11

青空のもとで、デンマーク・デザイン展

Img_7647 なぜこれほど、わたしが観たいと思っている展覧会が次々に開かれるのか、不思議なのだ。逆に考えれば、みんなが観たいと思っている展覧会に、わたしの趣味が迎合しているということなのかもしれないのだが。けれども、それで訪れる展覧会が他の展覧会よりも空いているのも、もっと不思議なことなのだ。

 

Img_7699 青空の広がる横須賀の海を、貨物船や軍艦が通り過ぎていく。時折、小さな漁船もスピードを上げて横切る。5月の浦賀水道は、行き交う船でまんぱいだ。Img_7719 バスを降りて、真っ青な海を左手に、浦賀へ通じる道を右に横切ると、なだらかな丘の上に横須賀美術館の建物が広がっている。建物の前面には、レストランのテラス席が並んでいて、ランチ後の喫茶を楽しみながら、こちらを見ている客たちが見える。Img_7652 丘には、芝生が敷き詰められており、緑が青空に映える。ときどき、白く見えるまだら模様は、クローバーの花がかなり蔓延っているせいだ。

 

Img_7659_2 今回のデンマーク・デザイン展で特に見たいと思っているのは、もちろん椅子作家たちのデザインだ。ヤコプセンやウェグナーたちのものは、日本では公共の施設などで使われていて、よく目にする。また展示会も以前ここで紹介したように、銀座などのショールームで頻繁に開催されている。Img_7674 今回の最後の展示コーナーには、PPモブラー社の提供のものと思われる、ウェグナーのカウホーンチェア・ザチェア・アームチェアなどの笠木ができる過程を展示していて、どのくらいの原木から最後まで削り込むのかがわかるようになっている。Img_7685 そして、この灰色のカーペットの範囲内であれば、テディベアチェアやサークルチェア、さらにザチェアなどにも、実際に座ってみて、写真も自由にとって良いということだった。やはり、椅子では触感が重要で、お尻が椅子を覚えているということがあるのだ。

 

Photo 日本人の好きな椅子作家として挙げる一人に、デンマーク・デザイン作家のフィン・ユールがいる。部材を細く削って、独特で繊細な曲線を取り入れている、この椅子たちが素晴らしい。ところが、このフィン・ユールの椅子はパーソナルチェアが多いからなのだろうか、公共の場ではあまり見かけない。今回の展示でも、「個人蔵」という椅子が多かった。だから、今回の展覧会では、特別に注目していたのだ。展示室へ入ると、黄色い基調の有名なチーフテンチェアが現代貴族の椅子然と目立っている。後ろ足が三角形で上へ行くほどすぼまって行って、最後に雨だれのような小さな塊で終わっているところなどは、ほんとうに泣かせる。

 

Nv46 けれども、今回の目玉とわたしが目指してきたのは、モデルNV46で、1946年に造られたラウンドチェアだ。このモデルの2年前にモデル44が作られていて、これはおそらく試作という位置付けなのだ。12脚しか造られていないのだそうだ。フィン・ユールの特徴は、モデル44で止まらずに、モデルNV46へ展開したという、この展開そのものにある。おそらく、ウェグナーならば、逆でNV46が試作品で、それから発達させて、44へ行きついたのだろうと思われるのだが、この対比が比類ない面白さをもたらしている。

 

44 もし効率性を考えたら、完成度の高いモデル44を制作するのではないかと、企業であるならば考えたに違いないのだ。こちらの方が部品の数も少ないし、削りに大量生産方式を取り入れやすい構造を持っている。つまり、モデル44では、後脚は二次元で切り出されていて、45度に転ばせて、三次元に見せている。名作椅子の常套手段をかなり忠実に取り入れているのだ。写真で後脚の1本が斜めのこの方向から見て、まっすぐに伸びていることから切り出しは二次元であることがわかる。ところが、NV46では、後脚は完全に三次元で切り出され、なおかつ接合部分の形状は手作業で、手間をかなりかける構造をとっているのだ。これは写真だけ見てもわからない。実際の椅子を見て、触って見ないとわからない部分なのだ。なぜフィン・ユールはモデル44で満足せずに、モデルNV46を制作したのだろうか。それはまさに、このところに象徴的に現れている。機能的であっても、過剰というものがここに出ていることがわかる。フィン・ユールの椅子には、この過剰性が必要だったのだ。

 

Img_7703 先ほどのレストランで、遅ればせのランチを取る。海の青さと空の青さのもとでの食事は格別だ。パスタとピザを妻と二人でそれぞれ取って分けた。

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ピザのチーズは塩味が効いていて、ピリッとしまった昼食となったのだ。


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2017/05/07

はぐくむ工芸ー工芸の五月「子ども椅子展2017」ビデオ

これらの映像は、2017年5月2日から松本市美術館中庭で行われた、工芸の五月「子ども椅子展2017」を写したものである。少しずつ分けて、1〜4番目までの映像を載せた。時間がなかったので、音楽なしの無粋な映像で恐縮だが。この展覧会は、この後5月15日から6月25日まで、松本市中町通りの「グレインノート」へ移して開催される。子どもたちが座ってみることができる参加型の展示会となっている。「座ることが好きだ」という子どもたちが毎年集まってくるのが素晴らしい。主催は松本クラフト推進協会の中にある工芸の五月実行委員会で、松本市美術館が中庭会場などを提供するなどの協力を行なっている。広がりのある活動だと思う。


映像1
映像2
映像3
映像4

2017/05/01

松本市美術館で連休中にヒアリング調査

Img_7529 松本市美術館の中庭で毎年開かれている、「工芸の五月」の催し「子ども椅子展−はぐくむ工芸−」へきている。今日は、明日から開かれる展示、つまりは子ども椅子なのだが、この搬入が行われる。Img_7397_2 そこで、次々訪れる椅子の職人作家の方がたへヒアリングを行おうというのだ。じつは「なぜ椅子を作るのか」という質問を作家たちにぶつけてみようと、グレインノートのS氏が言い出したのに、わたしも乗ってしまったのだ。Img_7405 最後は、書籍になるかもしれないし、わたしの研究に組み込まれることになるかもしれないが、まだ全体像はわからないのだ。

 

Img_7410 今回、25名の方がたが出展していて、この方々の多くが9月に松本市中町通りにある工芸店「グレインノート」での椅子展にも、同じく大人椅子を出展している。今回は、この9月の椅子展の写真をS氏からお借りして、それを見ながら、20名あまりの方がたへ聞いてみようということになっている。Img_7482 それにしても、この写真集には全部で8年間分が詰まっていて、系統を整えて見ていくと、たいへん興味深いものになっている。よく記録が保存されているなと思える貴重な資料だ。Img_7308 ヒアリング調査の方では、最初はしゃべるのはイヤだ、椅子の図を描くなら良いよ、などという作る人特有の意見が聞こえてきたのだが、S氏の存在感ある、熱心で強い説得に、みなさん渋々ながらしゃべり始め、途中からはむしろ意欲的に話してくださったのだ。

 

Img_7313_2 初日には、一人を予定していたのだ、S氏が次々に捕まえてきてくださって、じつに1日で4名の方々のヒアリングをこなしてしまった。Img_7578 10時から始めて、昼食も忘れ、帰りの電車の時間いっぱい頑張ってしまった。これまでのヒアリング調査では、1日に2人くらいが標準であったのだから、かなりのところ許容量をオーバーしたのだ。Img_7468 仕事の進む快感と、対話の面白さとで、身体は疲れたが精神的にはむしろ爽快感が残ったのだった。

 

Img_7474 聴くことは結構疲れるのだが、それはヒアリングでは話の繋がりが重要だからなのだ。Img_7478 関連したことが次から次へ結びつき、その中から有効な問いと答えが生まれてくる。たとえば、椅子の部材を削ることに熱心な方が数人いらっしゃった。なぜ「削り」ということに熱心になるのか、ということを聞いていくのだが、それぞれ理由は異なるのだ。ある方は鉋の使い方に工夫があると言い、ある方は手の感触に特色があると言う。Img_7582 それぞれ話の繋がりが異なっていて、それを問いとして成立させるのには、かなり神経を使うことになるのだ。そして、ここに話の中心があるというところを突き止めなければならない。

 

Img_7480 興味深いところはたくさんあって、書籍になる頃には明らかにしたいと考えているのだが、今回聴いてみて、「椅子の言葉」として定着できることとできないこととがようやくにしてわかってきた感じだ。Img_7473 たとえば、職人技の持っている「暗黙知」の部分はおそらく「椅子の言葉」として聴き取ることはできないかもしれないという予感はあったのだが、じっさいに行ってみると、それ以上だ。

 

Img_7479 経済問題に近いところで取り上げるならば、「手間」という問題がある。仕事にかかる労力と時間のことを言うのだが、とりわけ時間がかかる仕事を指す。けれども、詰まるところ、手仕事で「手間」を省けば良いのかと言うとそういう訳には行かないところが面白いのだ。Img_7409 通常の労働であれば、効率性を問題にするので、手間を最小限にすることを目指す場合が多い。けれども、手仕事の場合には、どこでその職人が付加価値を取るのかが重要なのだ。これは意外なことだったのだが、聴いてみるとなるほどと思った。Img_7404 一番「手間」のかかるところで、その人本来の付加価値が生まれるとのことだ。だから、聴いた方々おしなべて言うのは、肝心なところでは手間を惜しまないということだった。この辺を中心に考えていくと面白いことになるのだ、という感触があって、たいへん楽しかった。


松本市美術館へ通う道は、わたしがこの深志にかつて住んでいて、大手の裏町にあった幼稚園へ歩いて通った道筋だ。とくに、薄川扇状地の地下水が湧き上がる「源池」の源泉近辺の側溝の水は澄んでいて、水の豊富さを感じさせる。この小川みたいな側溝を飛び越える時の感覚が、幼稚園時代そのままにわたしの中に残っていることがわかる。この脇には、通っていた習字教室があり、さらに帰りには数時間見物しても飽きなかった、鉄工所跡があって、鉄を焼き付ける匂いが鼻の中に蘇ってきたのだった。

Img_7518 昔の庄屋の倉庫が「工芸の五月」イベントへ開放されていて、水出しコーヒーの管が展示されていて、コーヒーが抽出されていた。Img_7522 これだけの広さがあれば、書庫にもってこいだ。どなたかわたしにも昔の倉庫を提供してくださる篤志家がいらっしゃらないだろうか。

 

毎日のランチは椅子の人びとと1回、近くの蕎麦屋へ行ったほかは、中町通りの「chiiann」で2回、パスタランチとキッシュランチ。Img_7434 それから、あがたの森公園通りの「栞日」でカレーランチ2回、あとは昼食抜きで、ほぼ1週間美術館へ精勤したのだった。コーヒーは、それぞれの喫茶店で飲んだ他に、いつもの焙煎豆売専門店「ローラ」でインドネシア産の濃厚な珈琲豆を手に入れて、水筒へ淹れてきていた。食事のついでに、chiiannでは、オリジナルの木綿トートバックも購入した。これには、北アルプスとCカステラが描かれていて、きっと何か物語が隠されているのだろう。Img_7448 それから、美術館の帰り道では、コンフィチュールの「シェモモ」ご主人M氏がお子さんの散歩に付き合っていたので、ご挨拶した。じつは会期中に店にも寄ったのだ。Img_7306 今回購入したコンフィチュールは、「レモンとバニラとグレープフルーツ」で、相変わらず多様な果物のバランスが良く、程よい刺激的な味が美味しかったのだ。

 

Img_7268 短く感じた1週間だった。結局、18名の方々のヒアリングを行ったのだった。Hさん、Kさん、Yさん、Mさん、Hさん、Oさん、Tさん、Kさん、Tさん、Kさん、Yさん、Aさん、Yさん、Sさん、Sさん、それから、松本クラフト推進協会のTさん、Kさん、Kさんにもご協力いただいた。ほんとうに感謝申し上げる次第だ。Img_7563 5日目のKさんからは、写真のような惚れ惚れする形の良いカトラリーをいただいた。柿渋の後、エゴマで覆っていて、このような深い色が出ているのだそうだ。

*この「はぐくむ工芸(子ども椅子展)」は、5月15日から6月25日まで、場所を松本市中町通りの「グレインノート」へ移して展示される。また、放送大学授業科目「色と形を探究する」第12回(6月26日20時から)で2016年の子ども椅子展、第14回(7月10日20時から)で2016年の椅子展がそれぞれ、放送大学のテレビ番組として放映される予定である。興味のある方はぜひご覧ください。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。