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2017/04/20

ブロイヤーの椅子

Photo ブロイヤーの椅子は、近代的デザインの申し子ともいうべき位置を占めている。並み居る椅子の中でも、とりわけ最も近代性という特徴を備えている。主たるブロイヤー作品の多くが金属パイプを多用していて、可塑性に富んでいるのはその一例だ。そのため、大量生産へ結びつく可能性を感じさせる。デザインのシンプルさは、多くの機能主義モデルの最右翼を占めていることは間違いない。ブロイヤーの椅子と並べて、これ以上に近代的だと比較できる椅子はあまり存在しない。

 

Photo_2 ブロイヤーの椅子は、デザイン源流のひとつと数えられている「バウハウス」の近代的デザインが生まれる中で育ち、それをさらに内発的に受け継いでいるなどの特徴は直ちにあげることができる。文化的に見ても、社会的に見ても、さらに経済的に見ても近代的なのだ。最終的に、機能美が椅子デザインの内側から起こって、必要最小限の素材を使うことで、椅子という領域の枠を広げる領域侵犯を招来していて、新たな椅子の概念を打ち立てている。

 

Photo_3 けれども、今回の近代美術館の展示で知ったのは、鉄やパイプを中心に発展させた椅子の始まりが、じつは木製椅子であったという、これまで想像していなかった展開があったことだ。この木製椅子のシンプルな見事さはさることながら、この狙いを推察するならば、やはり金属パイプへの転向は自然な流れであったと思わざるを得ない。ブロイヤーにとって何が革新の出発点であったのかは、想像することしかできないのだが、よく見ていると、やはり脚の構造にあったのではないかと思われる。木の椅子では、部品の数が多く、複雑な構造になってしまうのだが、金属パイプでは脚が固定されるものの、身体の揺れに対して椅子自体が自由に戯れ、さらにその機能がシンプルに実現される構造への転換が起こったということではないだろうか。

 

Photo_4 もう一箇所注目したのは、バウハウスの画家カンディンスキーのために作ったと言われる「ワシリーチェア」椅子のパイプ結合部分である。一見するところ、この結合部分も近代的な考え方に従えば、部品を少なくして標準化を図るためには、一体化された構造が選ばれるのではないかと想像していたのだが、そうではなく、輸送して組み立てるのに便利な構造が選ばれている。コンパクトにして留め金で自由に結合できる構造が数年間の試行錯誤ののちに選ばれているのである。部品がバラバラで組み立て式の方が、操作性も良いのだ。

 

Photo_5 さて、展示会場の外には、写真撮影コーナーが作られていて、バウハウス時代へ自分がタイムスリップすることが可能となっているのだ。ここで、仮面をつけて、ワシリーチェアに座ると、近くの美術館の係員が写真を写してくださるのだ。Photo_6 なぜ仮面なのか、そういえば、近代性のひとつの特徴は、匿名性にあったなと思い至るのだった。竹橋を渡り、毎日新聞社の地下を通り、東西線地下鉄に乗った。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。