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2017/03/26

「正岡子規」展を観る

Img_6703 冷たい雨が降っている。関内駅で地下鉄を降り、横浜スタジオの横を通り抜け、フランス山の急な階段を駆け上って、いつもの風車の脇をすり抜けて、港の見える丘公園に出る。Img_6708 お花畑を横目で見ながら、霧笛橋を渡ってお話の世界へ入っていく。F氏と神奈川県立近代文学館で開かれている「正岡子規」展を観る。

 

Img_6713 先日、上野の「正岡子規球場」の話を書いたところだが、なぜ正岡子規が野球殿堂入りしているのかといえば、この「野球」という言葉を編み出したのが、子規だからだそうだ。幼名が「のぼる」というところから、「ノボール」という言葉になり、「野球」となったのだ。ほんとかなと思ってしまうほどのユーモアだ。ちなみに、ベースボールの中国訳は、F氏によれば「塁球」なので、直訳なのだが、日本では違うのだ。Img_6717_2 このような駄洒落めいたところが随所に正岡子規には見られる。とりわけ、夏目漱石との間で、笑いの掛け合いをしているところがたいへん面白かった。子規の批評を偽名で行っていて、その名前が「平凸凹(たいらのでこぼこ)」という名称を使っていたりする。このユーモア抜きに子規周辺を理解できないことを知る。

 

Img_6715 子規の若い頃の考え方で、ズバッと書いていて素晴らしいなと思えるのが、学問の中核にある「好奇心」についての記述であった。展覧会では、22歳の時の『水戸紀行』を引用していた。「好奇心といふことは強く遠く遊びて未だ知らざるの山水を見るは未だ知らざるの書物を讀むが如く面白く思ひしかば」と記されている。好奇心とは「強く遠く遊ぶ」ことである、というのは、素敵な言い方だと思う。Img_6711 好奇心では、「強く遊ぶ」ことと、「遠く遊ぶ」ことの両方が必要なのだ。強く遊ぶというのは、遊びに夢中になるという性質をよく捉えているが、さらに遠く遊ぶということがもっと重要なのだと思われる。日常から離れて、専門から離れて、中心から離れて、周辺から遊ぶ中で、好奇心は育まれることを説いていて、「うん、なるほど」と思ったのだった。経済学者ヴェブレンの言葉に、「怠惰なる好奇心」という言葉があるが、「遠く遊ぶ」というのは、この系列に属する考え方だと思った。

 

Img_6719 F氏は盛んに、子規と漱石との関係に興味を持っていた。展覧会には、第1高等学校時代の成績表が出展されていて、子規の同級生に漱石や南方熊楠や山田美妙が並んでいた。展覧会の解説者による説明文によると、漱石がアイディアを重視したのに対して、子規はレトリックを重視したと記していた。小説家は新しい話を作ることに秀でるのだが、俳句はレトリックの問題が重要であるというのはわかる話だ。Img_6720 もっとも、おそらくこれは相対的な話であって、それぞれ相互に影響を与えあっていたのだと思われる。漢文による書に対して、漢文による批評を返していて、当時の高等学校生の教養の深さを知った。また、有名な話では、子規の「柿くえば 鐘が鳴るなり 法隆寺」という句は、漱石の「鐘つけば 銀杏散るなり 建長寺」の影響を受けたということもあり、この証拠となる高浜虚子の手紙も公開されていた。

 

Img_6726 外は依然として寒空が広がっていて、雨が冷たい。山手111番館の横を通り抜けて、外人墓地へ出る。明治期の水道施設の樹々が鬱蒼とした公園を抜けて、元町商店街の裏通りへ出る。Img_6733 娘といつも行っていた喫茶店が移転していて、無くなっていたので、ランチは日本茶と豆腐料理の店「茶倉」へ入る。人気店らしくて、しばし待ってから、席に着いたが、ゆったりと食事できる店だったので、手足が冷たくなっていたのが、豆腐ハンバーグと抹茶とで、ようやく暖かくなったのだ。

 

Img_6745 日曜日なので、観光客の多い中華街は垂直に通り抜けて、本町通の裏街を歩く。ここには幕末期の居留地跡がいくつか残っている。もっとも、この地面の下には、レンガ遺構などが埋まっているので、地表に現れているほんの少しのものを見ることができる。Img_6739 西洋商事館の建物のレンガや、松代藩佐久間象山の大砲、さらに居留地での日本初の近代的消防団跡などを見ることができる。Img_6766 そして、最終的には、F氏がジャーナリストだったこととは無関係だとは思われるが、いくつかの候補の喫茶店の中から、フレンチ料理のアルテリーベが1階に入っているビルの新聞博物館二階のクラシックな喫茶店に腰を落ち着かせる。Img_6769Img_6772 窓はすっかり水滴で真っ白になっていて、当分の間外には出たく無いほどだったので、老人二人はおしゃべりに精を出したのだったのだ。Img_6774Img_6780

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。