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2016/12/03

ユリイカ現象が起こると研究者本能が疼く

「ユリイカ現象」とよんでいる現象がある。二年前にエッセイに書いた時に、名付けたものだ。本当のところ、この現象が起こるから、わたしがこの職業を続けているとも言えるものなのだ。古代ギリシアのアルキメデスが風呂に入った時に、有名な原理を発見して、興奮のあまりこの言葉「ウーレイカ!」を叫んで飛び出したと言われている。そしてじつは、今日もこのユリイカ現象が起こったのだ。

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放送大学の生活健康科学プログラム博士後期課程の報告会へ招かれた。博士課程では、集団指導体制をとっていて、複数領域の先生が学生に対応する。今回、N先生に依頼されて、わたしが副指導教員を担当しているKさんの報告会に立ち合わせてもらった。内容については、報告会が非公開なので、ここで述べることはできないのだが、そこで生じた「ユリイカ現象」という外部要因であれば、構わないだろう。

 

Kさんの報告を聴いていて、すでに議論は数ヶ月前から重ねて来ているので、当然と言えば当然なのだが、これまで行って来た議論がより深められたのであった。ただ、議論が深められたからといって、このユリイカ現象は生じないから不思議なものなのだ。でも、今回に限ってはこの累積された効果が出て来て、まさに「ユリイカ」現象となったのだったのだが、本当のところ瞬時に出てくる場合もあって、まことに奇々怪々の現象なのだ。

 

どのようなときに、ユリイカ現象が出てくるのだろうか。「やった」と叫びたくなる状態が現れるのだろうか。一般化はできないのであるが、いくつかの傾向がありそうだ。ユリイカ現象の第1段階として現れるのは、極めて個人的なものだ。個人的な発想の時に起こる場合が多い。自分の中で、「ああ、そうか」という思いが浮かぶ。それは妄想の類かもしれないし、単なる幻視なのかもしれないのだ。でも、わたしの卑近な現象を考えてみても、確実に何か研究について考えている時に、驚きをもって個人的な思いつきが生ずるから、おそらくこのような傾向もたしかにユリイカ現象の一部だろうと思われる。人間の本能的なものだと言っても良いし、個人的趣味だと言っても良いだろう。しかし、このことを他者へ漏らすと極めて高い確率で、変人とみなされる恐れがあるから、ふつうの人は口にしない。けれども、天才と呼ばれるような人びとは、個人段階のユリイカを大声で叫んでしまうものらしい。何度か、見聞したことがあるのだ。

 

ユリイカ現象の第2段階は、二者関係的なものだ。親密な関係にある人とだけと、その考えや妄想を共有できるのだ。自分の言ったことと、相手との関係が密接に結びついて、緊密な議論が成立することが期待できる。友人や夫婦の間で生ずるものだ。片方がその発想を自分のものだ、と思い込むし、さらに相手もその発想を自分のものだ、というところまで、思い入れが激しく出てくることになる場合があるのだ。逆に、この考えを共有しているからこそ、その友情が確からしく思えてくる。ユリイカ現象の相乗効果が現れてくる端緒となる状態が現れるのだ。Kさんとの、1対1の授業では、この形態のものだったと考えられるかもしれない。

 

ところが、ユリイカ現象には、第3段階があるのだ。それは、三者以上関係的なものだ。もちろん、ここで二者や三者と使った数字は、相対的なものであり、確実に2や3である必要はない。相互の複雑性の度合いの違いである。いわば、個人的ユリイカ現象や、二者関係的ユリイカ現象の発展型であり、集団的ユリイカ現象と言えるものである。もちろん、今回とくに言いたいのは、この第3段階であり、報告会や懇親会でのユリイカ現象なのだ。これは思い込みなのであるのだが、なぜ同じ思い込みが他者にも生ずるのか、ということなのだ。博士課程を造ってよかったな、と感ずる一瞬だった。

 

集団のユリイカ現象は、社交性の極みだと思っている。論文を媒介として、人びとが議論しあい、ユリイカ状態に集団に達するのだから。これは体験した者にしかわからないもので、研究ということを続けていて良かったと思わせるものだといえる。このようにして、研究者本能というものが、もし好奇心の行き着く果てにあって、それを通じて複数の人の間にユリイカ現象を共有できるならば、やはり社会人のための博士課程を造った意義があったと言えるだろう。Kさんの博士論文が来年には発表されるだろうから、みんなが感じたことの一端が、それでわかってもらえるだろうと期待して待っている。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。