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2016/11/10

青空と、落葉と、世界と

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青空と、落葉と、世界と

(オーデン詩へのオマージュ)

紅葉が風に耐えている。

秋の日の遠くまで見通すような青空の中に

萌えたつ葉たちが揺れているのを見ると、

つい足が進んでいくのを覚える。

きのうまでの頭にひびが入るような忙しさと

同じ空間の延長線上に

あっけらかんとした

こんな日常がある。

明治時代に作られた椅子にすわって

昔のことを空想しているようで

どこかで忘れられていた安逸どもが

秋風とともに

身体全体に染み込んでくる。

椅子が青空の中へ飛んでいく。

幼児のクレヨンが

青空に絵を描いていくように。

もし昔の仲間たちがみんな死んでいったとしても

青空に描かれた空想たちがそのまま残ってくれるならば

わたしの書いたことだって、

そんなに非難されることではない。

足腰が立たなくなって

この坂道を這いずり登ったとして

元気に並んで、ピクニックを楽しむ

子供達に反感を抱くこともないだろう。

青空に描かれた空想が子供達に見えないないだろうし、

それらが理解されることもない。

それでも、わたしはそっと足を出すだろう。

老人ホームを夜に抜け出し

時計屋のコチコチと鳴る時間を泳ぐよりは

江戸時代の畑の真ん中に石を見つけて

のぼり旗を立て、

日本中から人びとを呼び出し

踊り出す方が面白いだろう。

青空のもとでこそ

許される祝祭の幕開けだ。

さあ、泣いていても始まらない。

青空の椅子が飛び込んだのは、

百人の会議が繰り広げられている

図書館だ。ちょうど後ろの席では、

大統領選挙の開票ニュースが

告げられている。

共和党がわずかだった差を広げている。

けっしてストイックだとは言えない選挙戦が

終わったことにみんな共感している。

貧しい人も金持ちも

ただ結果を待っている。

公園の片隅の椅子は

青空に描かれた椅子とどこか違う。

世界の人びとを近づけようと

青空の椅子は言っている。

けれども、目の前の椅子は、人びとを

遠ざけている。

現実の椅子は、

すわることは拒否しなくても

すわる人びとを選んでいる。

それが証拠に、椅子と椅子の距離は

会話ができないほど離れてしまっている。

まさに公園を歩いているうちに、

予期せぬことが起こってしまったのだ。

同じ青空のもとで

紅葉は風に揺らいでいる。

先行きのわからない世界を

青空の下の向こう側とこちら側で

計りかねている人びとがいる。

震災の後にも同じように青空が

広がっていて、みんなあっけらかんとした状況を

理解できないでいた。

風が吹いている。

今日も一日が暮れようとしている。

家に帰って、妻と今日を語ろう。

どんな世界が待っていようとも

みんな同じ青空の下にいることだけは

確かなのだから。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。