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2016/10/11

青山のグルニエと編集者パーキンズ

Img_1565 かねてより約束のあった原稿提出の日だ。出版社のT氏と青山で会うことにしていた。久しぶりに東横線に乗って、渋谷を経由して、半蔵門線で表参道へ出る。大学院生時代には渋谷に住んでいたし、青山には友人もいたし、さらに英国トラッドのレコード屋さんがあったので、比較的よく表参道へは出ていた。それで、飲んだ後には喫茶店へ入ることが多かった。

Img_1567 けれども、今日待ち合わせている喫茶店「レジェ・グルニエ」には、よく前を通っていたにもかかわらず、看板がないため目立たず、入ったことがなかった。以前集中講義を行っていたとき、甲府にある喫茶店のご主人から聞いてようやく知った喫茶店だ。1972年設立とのことで、凝った白かべの内装はタバコのヤニで貫禄が出ており、さらに組み木の梁なども黒光りして、素敵だ。

Img_1564 先日、NHKで石津謙介のVAN物語を描いていて、青山を中心とした街の一時代がわかった。それから、かなりの変遷があり、わたしの学生時代からもさらに青山は変貌を遂げていると思われる。この喫茶店の横丁は、雑多な店が並んでいるところが良いのだが、次第に小綺麗なショールームが多くなりつつある。

Img_1563 喫茶店の一番奥のテラスに面した特等席が空いていた。チョコレートケーキとブレンドを頼んだ。ほどなくT氏が現れたが、現在来年まで10冊ほどの編集を抱えていて、忙しそうである。これまで、2度ほど他の喫茶店を巡りながら、話を聞いてもらっているのだが、いつも空みやげ話ばっかりだったので、ようやくドンと原稿を渡すことができて、約束を果たせた。T氏の奥様が農業関係に関わっているとのことで、衰退産業というのか、希望産業というのか、いずれにしろ生産性の低い産業の雑談話に花を咲かせた。

Img_1569 原稿を出したその足で、銀座に出た。映画を見ようということだが、まずは腹ごしらえということで、映画の前の小腹が空いた時に入るのが、この近辺であれば、この店「吉祥」だ。ここの「鶏だしソバ」というラーメンが美味しい。鶏の出汁なので、薄味風に見えるのだが、塩はしっかり効いている。お腹がいっぱいになってしまうと、眠気が出るので、この程度で満たしていくのが良いのだ。

Img_1572 映画「ベストセラー(原題:Genius)」を観る。コリン・ファースが編集者パーキンズを演じていて、抑え目な人格の編集者役をうまくこなしていた。じつはこの映画は、1980年代に日本で翻訳され出版されていた本が原作となっている。当時、すでにこの本を読んでいて、たいへん面白かった印象を持っていた。その後、ニューヨークへ資料収集に行った時も、この本の舞台となった出版社であるスクリュブナー社へも訪れたような気がする。本を読んだ時には、パーキンズが育てたベストセラー作家トム・ウルフが、毎日手書き原稿を書き、夕方にはタイピストに渡し、次の日にはまた手書きする、という流行作家の場面に感激した。日本でも、まだワープロは今日ほど普及しておらず、タイプライターというものの役割が絶大だった時代なのだ。

映画の中でも、トム・ウルフが手書き原稿を木箱いっぱいに持ち込んで、それを端から数人のタイピストが活字原稿にしていく様子が描かれていた。おそらく昔であれば、これはかなり感動的なシーンのはずだ。今日のように、ワープロ・コンピュータの時代であれば、みんな自分で入力するのが当たり前なのだが、それによって消えてしまったタイピストという職業と、それから手書き原稿へのロマンが懐かしい。今日でもワープロを使わない作家は存在するが、わたしが本を読んだ八十年代でも、まだまだ原稿の清書業が成り立っていたように思う。だから、この40年間の間に感動のシーンがかなり変わってしまったのだ。

この時代というのは、編集者という役割が重要となった時代と言って良いのではないか。つまり、前の時代にディケンズのような作家という職業ができて、まずは小説家・生産者からの「小説という世界」が生まれたのだといえる。次に、そこに読者の世界が存在しなければ、小説家も存在しないことになるから、読者の側の「小説という世界」が広がるのだ。そして最後には、この小説家と読者を結びつける、編集者という役割が重要になったのだ。編集者パーキンズを見ていると、この時代にそれが起こったのだと思わせるものがあるのだ。うろ覚えで申し訳ないのだが、確か本の中では、このパーキンズが編集者向けの講座を持っていた描写があったような気がする。つまり、教育が始まるという事態が起これば、それは社会現象として、認められたということだろう。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。