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2016/09/17

グレインノートの椅子展

Img_4014 グレインノート椅子展が今年も開かれた。さっそく、松本を目指すことにする。台風16号の影響で、今年のシルバーウィークはずっと天気が悪いという予報が出ている。けれども、出発のあずさ号ではまだ雨の影響はなく、新宿の駅ではホームいっぱいに山歩きの人びと、観光の家族連れなどが列を作っていた。

Img_3928 先日、松本の宿を取るために旅行情報を検索したところ、どこの宿泊所もこの連休中は満杯で、最後に出てきたのが「tabisiro」という、このゲストハウスだった。二段ベットの大部屋が中心で、若者が多いだろうから、夜が遅くなるとちょっと面倒かな、と一瞬思ったのだが、和室の個室が空いていたので予約したのだった。泊まってみると、泊まり客は多彩で、気の置けない人びとだった。

Img_3920 ゲストハウスは松本駅から一駅くらいの距離のところにあった。いつもの街歩きの範囲内だった。道の途中にある、昭和初期の薬局を改造した喫茶店&ショップの「ラボアトリオ」でランチを食べた。そこから程ないところにある、宿はちょうど昼休みに入るところで、客は出払っていて、都合の良いことに電動付き自転車を借りることができた。Img_3937 これで足回りの確保ができたのだった。この自転車はたいへん便利だった。中町通りまで、ほんのちょっと一漕ぎで行くことができる。小学校時代には、街中を20インチの自転車で縦横に駆け巡っていた。この感触が戻ってきた。昔と比べると、松本市の道路は圧倒的に綺麗になっていたが、街巡りの距離感や角を曲がる感覚は、半世紀前と同じだった。この爽快な感覚を確かめつつ、中町通りに着く。

Img_3938 グレインノートの奥様が、高山から来ていらっしゃったT氏と話しているのを、ショーウィンドウの窓越しに見えたので、店の脇に自転車を停めて、そのまま裏口から入らせてもらう。挨拶もそこそこに、二階の展示室に上がると、電車の中であれこれ想像していた椅子がずらっと現れた。Img_3941 まず階段を上ると、正面には今年の子ども椅子展でメルヘン的な椅子を出品していたM氏が、椅子デザイナーのハンス J. ウェグナーの「ザ・チェア」をより重厚にしたような椅子が配置されている。それに続いて、H氏親子、A氏・・・と20数名の方々の作品が並ぶ。いつも思うのだが、作風というものが椅子にもあり、それぞれの作家の個性が表れているのが見事だ。

Img_4009 じつは、本日オープニングパーティがあって、何人かの椅子作家の方がたがいらっしゃるというお誘いをグレンインノートのS氏から受けた。来週には、授業科目「色と形を探究する」のロケを撮ることになっているので、ヒアリングができる絶好の機会であると、二つ返事で参加することにしたのだ。さっそくまずは、S氏の「Uアームチェア」についてお聞きすることにする。

Img_3987 内容については、来年から始まる授業番組を見ていただきたいのだが、一つだけコメントするならば、椅子をめぐる視点には、三つあって、利用者の視点、場所や社会の視点、中でも特に重要なのが、制作者の視点だ。椅子の製作には、利用者にはわからない、目には触れない、感触も不確かな制作者的な視点がそれぞれの椅子に埋め込まれているのだ。熟練の技術的なところでは、いわば「暗黙知」のような視点が重要なのだ。この見えない視点を、今回映像でいくつか注目したいと考えているのだ。さて、うまくいくのかな。「見えない形」というものが映像に定着できるのかが勝負だ。

Img_4006 たとえば、今回のS氏の椅子には、椅子の重要な構成要素の一つで、貫(ストレッチャー)という、椅子の足を結ぶ構造があり、それが「カウホーン(牛角)」型になっている特徴を示している。なぜカウホーンなのか、機能的にこれが必要なのか、それとも単なる装飾なのか、などは注目点の中でも、興味深い点なのだ。伝統的な考え方と、革新的な考え方とが、まさに交差する「暗黙知」の部分なのだ。

Img_4016 このような構造に関しては制作者にしかわからないところがあって、実際のところ、利用者に対してどのような影響を与えるのか、この椅子が据えられている場所から見て、あるいは社会的な意味から見て、どのようなことが背景に横たわっているのか、ということは、言葉に表してみないとなかなか理解できないところだ。

椅子を届けに来たT氏の椅子は、子ども椅子でも話を聞いていて、今回もたいへんユニークな椅子を出品してきている。曲線を多く取り入れていて、これまでの椅子の歴史の中では、ガレやガウディのアールヌーボー系の系譜に属するのではないかと、わたしは勝手に思っている。背板の植物模様、前足から笠木そして反対側へ向かっての曲線は素敵だ。

Img_4034 パーティの中で、ベースを受け持っていたH氏は四角い座面のスツールを展示していたし、またギターを担当したS氏は、授業で取り上げたいと考えている椅子も別にあるのだが、それとは別に、イタリアのジオポンティ風の軽量を狙った椅子も出品していて、軽量ということが実際に形に定着するときには、どのような苦労が存在するのかを詳しく話してくださった。単に素材の重さを軽くすれば良いということではなく、これは人工構造物に共通した「耐久性」ということとの相関関係にあることを説いてくださって、ギリギリのところの制作者の思いということがたいへん興味深かった。

Img_3985 オープニングパーティは、このように音楽付きで楽しい会となった。びっくりしたのは、グレインノートの奥様で、メロディホーンを片手に大方の名曲を覚えていて、ゆったりとした伴奏にうまく乗る演奏を披露なさっていたことだ。

出席していた中では、特に安曇野市在住のKa氏から詳しい話を聞くことができた。Img_3986 ご自身の椅子の話は、興味は尽きないが、座面の編みを得意とする方で、有名なウェグナーのYチェアの編み方の秘密など、専門家にしてようやくわかるようなお話、実際に全てを理解したのかは自信が全くないのだが、制作者にしかわからないことがたくさん出てきて、だからこそ、利用者の視点との対比が面白くなるのだ、ということも感じたのだった。

Img_4000 若い世代に属するKi氏との対話は、まさにその点に関わることだった。ここには通称「マルガリータ」さんというフラメンコを良くする人が、話に加わってきて、次から次へ言葉を繰り出してきて、それを選びつつ話が進むという珍しい経験をした。酒酔いのせいもあったのかもしれないが、自分と異なる世界に乱入する場合には、このような霊媒者的な方の役割は大きい。何が問題になったのか、要約してしまうことは難しいのだが、椅子にも「遊びの要素」が必要ではないか、というような、ニュアンスの会話があった。これがわかるためには臨場感が重要なので、うまく伝えられないかもしれないのだが、わたし自身はわかったつもりになったのだったのだ。こんな風に、パーティの夜は更けていったのだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。