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2016/08/13

お盆と椅子の日々(1)

Img_4550 お盆とピザの季節がやってきた。午前中早々に、妹夫婦と一緒に、お墓まいりと親戚のT家への挨拶を済ませた。大町市内は、標高が高いだけ、日差しが強い。T家では、お盆休みで、一家の皆さんがいらっしゃった。白玉とコーヒーゼリーの甘いもの、さらに恒例のお漬物をいただいた。また帰りには、畑で採りたての野菜をどっさりといただいた。

Img_4549 昼食をとったのは、毎年訪れることにしている、森の中のパン屋「パン・ド・カンパーニュ」である。予約を取っていたのだが、石窯の前の席はすでに早い時間の予約客で満杯だったので、子供部屋になっている八角形のストーブのある小屋の席を空けてくださる。Img_4566 駐車場には、品川ナンバーや足立ナンバーの車が並んでいたので、帰省客や観光客がかなり訪れているものと思われる。

まずは、地元産の無印リンゴジュースで喉を潤してから、マルゲリータ、きのことゴーダチーズ、さらに夏野菜ピザを次々と食べた。Img_4560Img_4559 Img_4564 Img_4561 Img_4562 このパン屋は10年ほど前に、妹夫婦が車で通りかかって、我が家にとっては「発見」された。1992年創業の店だ。幹線道路からは少し入ったところにあるので、なかなか分かり難い場所にある。Img_4556 現在ピザを焼いている息子さんが当時はまだフランスへ修業に行っていたので、パンだけが売られていた。むしろ、父親のご主人がやっている木工の注文家具屋として開店していた。けれども、天然酵母を使っている味が独特で、わたしたちも妹夫婦に教えてもらって、ようやく知った次第なのだ。Img_4567 そして、息子さんがフランスから帰ってきて、石窯を構えてからは、夏のピザの常連となったのだ。

安曇野市の穂高には、椅子の作家たちがショールームを構えていて、その中の一つでも良いから、かねてより行ってみたいと考えていた。Img_4587 けれども、わたしは自動車を運転できないので、電動付き自転車でも穂高で借りていこうとおぼろげながら計画していた。今回、妹のご主人がレンタカーを借りて、穂高へ行ってくれるというので、便乗して、北アルプスの麓を並行して走る、山麓線(安曇野アートライン)と称する道路を南下した。

Img_4586 美術館やハーブの店や地元産の野菜などを売る店が、何キロにわたって続いており、その中に目指す「アトリエ宇(そら)」がある。ここは、信州木工会のU氏が経営する工房とショールームがある。無垢材の椅子やテーブル、子ども椅子と卓袱台のセット、木のカトラリー、友人たちの陶磁器などが展示即売されている。ホームページは以下のところだ。

http://sfrsora.exblog.jp/

Img_4589 ここで最も聞きたかったことは、通称「ドワーフ椅子」と呼ばれているU氏の作る「子ども椅子」についての発想についてである。この椅子はすでに5月の子ども椅子展で拝見していた。もっとも、その時の材質は黒いウォールナットだったけれど。この子ども椅子の特徴は、座面が柔な曲線で囲われているにもかかわらず、全体としては頑丈な構造を持っている点である。とりわけ、座面の形に特色があって、人間の足が二本出ているのに沿って、凹凸がつけられている点だ。なぜ凹凸なのか。また、なぜ背板が細いのかなど、幾つかの疑問が存在する。

Img_4588_3 座面については、すぐに疑問は解決した。当初、これらのチェアは、「ハート・チェア」と呼ばれていて、座面を意図的にハート型にして、子どもにもわかりやすい形を取り入れたからだということだった。Img_4594 それじゃ、なぜ途中からドワーフ・チェアになったのかというと、保育園からの注文で、卓袱台とのセットで作ったことからで、そのときのセットの卓袱台は7色の無垢材が組み合わせて作られており、この7色に合わせて、椅子も7色の種類が作られたのだそうだ。それで、グリムの「白雪姫と7人の小人」童話から、小人のドワーフ族が連想されたのだそうだ。

Img_4592 もう一つ興味深い点は、このドワーフ椅子には、大人用も作られていることである。じつは他の作家の多くが大人椅子のデザインが先にあって、子ども椅子が後で作られるのがふつうなのだが、この椅子に限っては子ども椅子が先に作られたそうである。そして、のちに大人用に作られて、この形になった。Img_4593 大人椅子と子ども椅子とは、ふつうそのまま同じ尺度で拡大したり、縮小したりしたのではそれぞれ成り立たないことはわかっている。ここが微妙なところであり、縦横の拡大や高さの調節には、勘による部分が大きくて、設計図には残されていないそうである。

このような勘に頼る方法の欠点は、試作品を作るときと同様に、不確実性が残っているために、「失敗」に至る可能性がつねに存在する点である。Img_4591 U氏のこのドワーフ椅子の発展系には、上記の大人椅子と、もう一つ「大人用ハイチェア」とがある。じつは、このハイチェアへの発展を計画しているときに、「失敗」が起こったのだそうで、二つのハイチェアを見せてくださった。つまり、ドワーフ椅子の脚をずっと伸ばしたときに、背板の傾きと椅子の大きさとのバランスが崩れたのだ。けれども、完成させてしまえば、この椅子に合う利用者を見つければ別に「失敗」というわけではないだろうと思われるのだが。

Img_4595 最後に、興味深かったのは、U氏が複数の職人の方々と共同で工房を運営している点である。このところ、わたしが椅子製造の統計を扱っていて気付いたのは、日本の家具メーカー全般に事業所規模が小規模になりつつある点である。このときに問題なのが、若手の育成である。規模が大きくなれば、教育訓練の費用が賄えるが、小規模になればなるほど、その余裕がなくなることになる。つまり、現在の日本の家具メーカーでは、この若手の育成に「失敗」しつつあるのではないかと推測できるのである。

Img_4603 この点で、U氏の考え方はたいへん参考になったのだ。つまり現代においては、松本民芸家具などでかつて見られていたような、職人特有の徒弟制的なキャリア形成は難しくなってきているのだから、徒弟制とは違う形で、若手育成を図る必要があるとのことだ。一つのヒントは、古典的ではあるのだが、若手に下請けを受けてもらうことで、同時にOJT的な育成を図る方法である。つまり、積極的に作品の部分をアウトソーシングすることで、若手に同様の技術を身につけてもらうという方法だ。U氏は実際に行っていて、手応えがあるのだそうだ。この工房に来てもらって制作を手伝ってもらうことも考えているそうだ。若手の起点になればということらしい。

Img_4578 この工房で共同制作している若手職人の子ども椅子も、このショールームには展示されていた。ソファのイメージを子ども椅子へ落としたものだ。大学の講義で学生に人気投票させると、かなり票の集まる子ども椅子だ。そしてこれの大人椅子への発展形が、この座椅子に近い大人椅子で、テレビを床近くで見るのに好都合の椅子となっている。子ども椅子からの発展形は今後も多様に出てくる予感がしたのだ。子ども椅子、恐るべし。

Img_4576 ショールームに入ったところで、すぐに目に入ってきた椅子で、もっともシンプルな子ども椅子が置かれていた。じつは、これも子ども椅子展に出品されていた。あまりにシンプルすぎて、子どもの可愛さよりも、脚のつけ方という基本的な機能の方が目立つ椅子になっている。ほぞの組み方がたいへんきっちりしていて、滅多なことでは抜けない構造になっている。Img_4569 また、角の取れたつるりとした手に伝わる木の感触が素敵なので、思わず購入してしまったのだった。帰りに、街道沿いで見つけたハーブの店で、そのハーブのソフトクリームを楽しみながら家路に着いたのだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。