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2016/08/14

お盆と椅子の日々(2)

Img_4628 今日は、妹夫婦が釣りに行くというので、成果を待っていたところ、この近くの川の上流で、ご主人が見事に岩魚を釣ってきた。これは今晩のおかずにすることにして、それで昼食は蕎麦にしようということになり、この一本道を北アルプスに向かった。道路を道なりに一直線に行くと、日向山地区があり、その地域からさらに山奥へ進んでいくと、蕎麦屋が見えてくる。

Img_4621 じつはその手前には、黒部ダムの観光へ行く人たちの予備の駐車場が設けられている。こんな山奥で、さらにこの予備の駐車場でさえ、こんなに何千台もたまっていて満杯の状況なのだ、この自動車文化の極致と言えるような状況を、こんな山奥で体験するとは思わなかった。自動車文明を超える論理を展開できていない、現代の状況についてゾッとした感触を受けたのだった。もちろん、展開できない原因は明らかで、複雑性が増しているために表には現れてこないことが数多くあるためであり、それはわたし自身にとっても認識不足でお恥ずかしい限りなのだ。

Yamagatachair この蕎麦屋の隣に、5月に工芸店「グレイン・ノート」で個展を開いていた、Y氏の工房「木楽工房」がある。一度は訪れてみたい場所だった。木造二階建ての工房と、昨年まで喫茶店だった平屋のショールーム、さらに住宅と連なる建物が街道沿いに建てられている。奥様が外で作業をなさっていたので、声をかけて、Y氏を呼んでいただく。仕事の邪魔になるならば、出直そうと考えていたのだが、幸い笑顔で工房へ導き入れてくださった。

http://www.kirakukoubou.com/

Img_4622 二つの点で興味津々の話を伺うことができた。一つは、椅子修理の話である。30年前に作られた、居酒屋用の民藝椅子がこの工房に5脚運び込まれていた。修理の注文だということだ。全部で40脚の椅子の修理作業を行わなければならないという、珍しいところに遭遇したのだ。このような修理作業の現場には滅多に遭うことはないので、幸運だった。民藝椅子の特徴は、すべてミズメの木製で、金属の木螺子などはまったく使用されていない点にある。それで、修理の中心は乱暴に使われたために、「ほぞ」が緩んでしまったところの組み直しと、Y氏が得意とする座編みの編み直しだ。ここで、興味深かったのは、椅子の大方の設計構造はほぼ同じなのだが、「ほぞ」の組み方が職人によって異なるという、違いが見えてきたという点だった。これだけならば、それほど興味深いとは思われないのだが、実際に椅子というものは、「ほぞ」同士が交差するところなどのような、見えないところにこそ、手仕事の緻密さが出ているのが説明を聞いていてわかった次第なのだ。

Img_4623 もう一つは、文字では表すことが難しい椅子の構造の話だ。Y氏の独自に創作する椅子は、立木を鉈で割ったような柱の仕上げになっている。もちろん、細部は丁寧に鉋かけしてあるので、すべすべした感触なのだが、全体として荒々しさという点を強調する作りだ。それで、この荒々しさを残しつつ、しかも曲線の滑らかさを取り入れるにはどのようにしたら良いか、という工夫をお聞きしたのだ。この辺になってくると、設計図にはなかなか残すことが難しいし、もし図面に起こそうとするとたいへん面倒臭い表現になってしまうために、話はすごくわかりやすいのだが、客観的にはどのように記述したら良いだろうか、と迷ってしまうところなのだ。上下左右のバランス感覚の問題であり、頭から手仕事へつながる、曖昧な想像力が発揮される部分だ。

Img_4624 とりわけ、座板と肘木が後ろの脚と結合される部分の話が面白かった。見る人が見れば、「なるほど」ということになるのだそうだが、おそらく座る人はそこまで意識して座る人はいないだろうということだった。Y氏の表現が秀逸で、「二次元の素材を三次元の素材として利用する方法」なのだそうだ。これでわかってしまう人びとがいるということを知って、この世界の懐の深さを思い知ることになったのだった。9月に行われるグレインノートでの椅子展にも2点ほど出品なさるそうなので、楽しみにしたい。

Img_4613

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。