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2016/07/24

「生活科学」という学問分野はいかにして可能か(II)

Img_1194 放送大学の期末試験は、今が真っ最中である。朝、幕張地区のビル群を横目で見て、青空だらけの道をつき抜けると、千葉学習センターの駐車場が見えてくる。いつも、おはようございますと、玄関で挨拶する守衛さんたちは、自動車の整理に追われて、外に出ている。すでに、駐車場は満杯だ。

Img_1196 最近の関心事の一つに、「生活科学」という学問分野の本質とは何だろうということがある。じつは先月になってしまったが、放送大学博士課程の「生活健康科学」プログラムの報告会という催しが非公開で行われて、オブザーバーとして出させていただいた。わたしの所属する「社会経営科学」プログラムは社会科学で、このプログラムは、「生活科学」を基本的な方法として考えているという違いがある。

Img_1195 報告会の内容については、非公開の場なので、ここで言うことはできないのだが、わたし自身の感想として、「生活科学」と「社会科学」とはどこが異なるのか、という当然の疑問が湧いてきたのだった。それで止せば良いのに、つい口が滑ってしまって、「生活科学」などという学問が成立するのでしょうか、などと素人発言をしたものだから、その場にいた「生活健康科学」プログラムの先生方から随分と顰蹙を買ってしまったのだった。

Img_1191 「生活科学」の源流には、幾つかの流れが存在することがわかっている。社会学では家族社会学やライフコース論などの系譜が存在することはよく知られているのだが、彼らは社会学の流れの中に収まっていて、「生活科学」という形で外へ出ることはあまりない。やはり「家政学」という分野の系譜との関係は深いと見ることができる。個人化の影響を受けて、家庭生活を中心に衣食住を考察してきた家政学が成り立たなくなって、個人が衣食住の活動の中心的な役割を担うようになったという認識が広がったのだ。家政学がその名の通り、家庭生活の中での人間と環境との関係を見ることにあるが、この観点が家庭の中での個人化の進展や、個人と社会とのダイレクトな関係が発展するにしたがって、家庭という視点が次第に失われるようになったと、これはやや早計だと思われる面もあるが、家政学会が積極的に認定してきたことを示している。ここには、社会福祉の進展が社会の側にあったし、さらに「生活者」という個人化の象徴が発達したことが作用しているのだが、果たしてその通りに、生活科学は発達してきているのだろうかという疑問が未だに存在するのだ。

Img_1193 このような事情は知っていたのだが、今回じつは、タイミングの良いことに、生活健康科学プログラムの博士課程のKさんと、二日間にわたって議論する機会を得たのは、幸せなことだったと思う。「経済学研究法」という授業を15回分、つまりは約22時間ぶっ通しで授業を行う、という過酷なカリキュラムだ。けれども、研究法の方は、ほどほどに済ませて、Kさんのテーマに沿って話し合いを進めたところ、この議論が盛り上ったのだった。Kさんはたいへん意欲的で、前の晩から本部に泊まり込んで、レポートを仕上げてメールで送ってきていて、準備万端で臨んできたのだった。

Kさんの博士論文のテーマは、患者と歯科医との関係を扱ったもので、まさに「生活科学」なのか、「社会科学」なのかが凝縮されて、問題状況として出てくる面白い対象だと言える。このテーマに沿ってでさえ、「生活科学」と「社会科学」との違いについて、おおよそ5点から6点の中心的な問題が明らかになったのだ。久しぶりに、議論から練り上げていく論文作成の醍醐味を味わうことができたのは、喜ばしい限りだ。いずれ、博士論文として現れてくるだろうから、暖かく見守っていきたい。詳しいことを知りたい方は、来年には成就されるであろうKさんの博士論文をぜひ読むことをお勧めしたい。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。