« 今年は取材で、クラフトフェアへ | トップページ | 面接授業の季節が巡ってきた »

2016/05/29

子ども椅子展のヒアリング

Img_3815 今日も、松本クラフトフェアへ、そして午後からは昨日に続いてヒアリングだ。昨日、3人の方へのヒアリングができ、ビデオ録画の準備へ布石を打つことができたが、まだまだフェアには4、5名の方がたが出店しているので、聞きたいことがあったのだ。

Img_3811 家具制作者がこんなに多くの顧客の人びとと交流できる機会というのは希有の状態だと思われる。これに便乗して、わたしもヒアリングに利用しているのだ。子ども椅子展へ出展の制作者が25名いるうち、3分の1ほどの方がたが、このクラフトフェアに参加してきており、数分であれば、こちらの質問に答えていただけるのだ。たいへん有難い次第である。今回は子ども椅子という対象がはっきりしており、ピンポイントで質問できるので、制作者たちの邪魔にはならないだろう。一応主催者の松本クラフト推進協会へも、今回の一連の取材については了解を取っている。

Img_3821 今日も会場は満員状態で、すでに午前中に観て回った人びとが帰り始め、交差が激しい。用意された作品も、最初が肝心で、みんなが良いと思うようなものは、すでに昨日のうち、朝のうちに出てしまうので、あとはコミュニケーションの時間があるだけだ。だから、この最後の余裕のある時間こそ、ヒアリングに適している。つねに、観光客と垂直にすれ違い、ズレを読みながら、調査というものは行わなければならないのだ。

Img_3802 少し前に戻るのだが、今日は会場へ直接行くのではなく、回り道をして、余裕を持ってフェアの会場へ行くことにしたのだ。子ども椅子展と同様に、フェアフリンジとして行なわれている「工芸の五月」の催しで、「六九ストリート」が行われているのだ。駅からの六九商店街への入り口にある最初の催し場では、すでに開店を待つ人びとの列が長くなっていた。途中、新潮社の雑誌「青花」の展示で、さりげなく高貴さを漂わせた刺繍を触らせていただき、その先の「工芸のウチとソト」を観ようと、ビルの前へ行く。

Img_3796 すると、ポパイのような目立つ服装をしたM氏が展示の写真を撮っているのに遭遇した。M氏は木工芸とエッセイで、生活工芸運動の一つの流れを生み出してきていて、この「六九ストリート」のプロデューサーでもあるのだ。わたしのテキストでも、引用させていただいている。このようなところでお会いできるとは思ってもいなかったので、ヒアリングの対象に入れていなかったのだが、松本家具制作の周辺をめぐるここ数十年の動きについては、斜めから見た一つの意見を持っているような気がしていたので、忙しそうな様子ではあったのだが、この点のみピンポイントで質問をしてみたのだった。

Img_3822 質問はちょっとずらせて、日本における「遍歴職人」の可能性はあるか、という自分でもちょっと恥ずかしくなるような穿った問いをしてみた。いろいろと理由を挙げ、人びとの背景を説明してくださり、丁寧なお答えを得たのだが、結論だけ書くならば、やはり重厚な家具が似合うような家の時代から、生活民芸が似合う家の時代へ、社会が転換したのだ、という認識を示されたのだった。立ち話でお聞きできるのは、この辺が限界であると思われた。

この近辺には、手打ち蕎麦屋が点在していて、観光客がずっと待っている。その一軒Sにおいて、フェアの幹部だったDさんが陶器の展示会を催していて、渋く明るい様子の酒器や皿や碗を出していた。こちらは、無料で店に入って鑑賞することができるのだ。

Img_3101 さて、今日のヒアリングは、まずはM氏から始めた。M氏は子ども椅子展では、ウィンザーチェア系の子ども椅子なのだが、ちょっと変わった特徴ある椅子を出展していた。ウィンザーチェアの場合には、背中のスピンドルが通常は子ども椅子であっても4本以上あるのだが、彼の椅子には、スピンドルが2本しかないというフォルムが特色となっている。背板部分が2本しかないということは、イメージとしては、空白部分が目立ち、真ん中がポンと空いているという印象が強い。ここにM氏の想いがあったそうで、話を聞くまでは、なぜ2本にしたのかということはわからなかった。つまり、意匠として2本スピンドルが選ばれたのだ。一言で言えば、「浮かんでいる」感じを出そうしたのだそうだ。背板部分の空いた部分でそれが実現されるのだ。この点は、スピンドルが使われる以前のウィンザーチェアに想いをはせてみるとわかるだろう。背板が一枚板で覆われていた頃には、板が座面から壁のように空気を遮ってしまう、重苦しいウィンザーチェアだったのだ。ウィンザーチェアの歴史は、いかにこの背板の重苦しさから、軽やかさへ転換できるのかの歴史であったと言っても過言ではない、この点からすれば、M氏の発想には、ご本人は認めないかもしれないけれども、軽やかな浮遊感を求める意図には、歴史的必然性があったのだと言えなくもない。

Img_3729 さらに、この2本だけで背中を支えるためには、当然のように座面とスピンドルをつなぐ技術の発達があったということだろう。楔が使われているが、その溝が二重構造になっているという強化が行われた結果、この2本のスピンドルが成立したのだ。この二重構造は、以前O氏のところで紹介したのだが、通常は脚部分に使われる技術だが、それがスピンドルでも使われているという特色をM氏の子ども椅子は持っているのだ。なお、M氏の場合にも、大人椅子が先にあって、バランスを考えながら、この子ども椅子が成立してきたという数十年にわたる工夫の歴史があるのだ。

Img_3818_2 次に向かったのは、T氏の子ども椅子、いわゆる「ぬく森チェア」だ。このテントには、小物ファンから、木のオーディオファンまで、顧客のネットワークがあって、なかなかT氏が単独でいるのが少なく、昨日から何回も暇の時間を見つけようと訪れていたのだが、ようやくにして、テント前で捕まえることができた次第だ。

Vlcsnap2016060214h55m37s138 この椅子の魅力は、年齢を超えて、子ども椅子が大人まで利用できてしまうという、変幻の椅子である点だ。第1に、お赤ちゃん時代には、最も座面が低層な置き方の使用法がある。ここでは、座席の前の棒が役に立つ。この棒は、西洋の子ども椅子にはよくつけられていて、子どもが滑り落ちないように、安全のためにつけられているのを見ることができる。けれども、T氏の場合には、そうではなく、この棒は子どもの自在で所在ない手を置いたり手で握って踏ん張ったりすることを想定していて、かなりポジティブな棒となっている。西洋風の使い方とは違うことがわかる。Vlcsnap2016060214h55m45s144 第2に、小さな子供時代には、この椅子をひっくり返して座面を高くして座ることができるのだ。この時、この棒は今度足置きになる。第3に、背面を上に出すと、大人でも使えるスツールが現出することになるのだ。

Vlcsnap2016060214h55m59s246 もっとも納得できたのは、このように多機能な点を強調するからには、機能的な観点からこの椅子が作られた、と思い込んでいたが、それがそうではないことがわかった時の意外さがあるのだ。

この椅子は、もともと東京の幼稚園からの依頼で作られたそうである。幼稚園椅子だから、パーソナルな子ども椅子ではなく、集団で多数個が使われることが想定されている。だから、T氏はこれらが積み上げられ、並んだ時の色のデザイン効果を狙って、おもちゃのキューブのように、異なる色が積み重ねられて、対比されたり同系統の色が揃えられたりする集団効果を想定したのだということである。想像するだに、これらが数十も積み重ねられ、それらのキューブの模様が得られるというのは壮観なのではないだろうか。つまりは、機能的な椅子だったと思われた椅子が、実際には装飾的な効果を狙ったものであった椅子であることがわかり、この落差が面白かったのだった。

Img_3104 今日3人目のS氏は、座面がしなるという特性を持つ椅子を作っていることで、自分の特色を出しているのだが、それを子ども椅子にも持ってきたのだ。こちらが興味を持ったのは、大人椅子から子ども椅子へ設計を変えた時に、何が実際に変わったのだろうか、という「古典」的な問いだ。やはり、子ども椅子の脚にそれが出たそうだ。具体的には、ストレッチャーの位置のバランスが変わったのだということだった。子ども椅子はふつう重心が低くなるから、ここで影響を受けるというのはたいへんわかる話だった。

Photo 少し違う領域にテントを出している方がたにも、ヒアリングを行おうと考えて、公園内のA-3領域から、C-3領域へ向かって歩いていく。Kさんの子ども椅子は、おにぎり型三角形の座面と、しかしながら4本脚であることと、座面と脚が白い素材を使っているのに対して、背板部分(と言ってもスツール仕上げなので低いのだが)が黒いウォールナットで色の対比を出している点で、機能にこだわらずにデザインの良さで特徴がある。このコントラストのある色使いは、確かに目立つのだ。先日の子ども椅子展でも、観客の一人が気に入ってしまって、そのまま購入したいと申し出ていたのを見た。

Img_3707 このコントラストはKさんがかなりお気に入りであって、コースターでも一枚板ではなく、この二枚が張り付いたものが作られていた。このような制作者の本能というものはたいへん重要で、顧客がつくかつかないかはわからないのだけれども、まずは作ってしまいたいという本能的な直感が制作者にはどうしても必要なのだと教えられる。おそらく、注文を取る場合にも、この点は重要で、100%顧客のいうことが取り入れられるという制作者はいないのだろうと思われる。否定的な言い方をすれば、このようになるだろうが、肯定的に言うならば、100%顧客のためを思うのであれば、顧客のいうことをある程度聞かないほうが良いものになるということだろう。

Img_3708 この点は椅子では特に大切で、Kさんはフロアで使う、低いベンチふうの安楽椅子を展示していた。Kさんが言うには、この椅子はおそらくあまり需要はないだろうとして作りました、とおっしゃる。けれども、絶対にこの椅子は大量生産の家具工場では作られない類の椅子であって、うちほどの需要のところで手作りでようやく作られるのだというのだ。そして、これをほんとうに欲しいという少数の方が出てきてもらえれば、それで経済的にも制作者側としても十分なんだというのだ。小さな経済圏で成り立つ製作ということの基本線がここにあると思われる。

Img_3876 あと、数人を残してしまったが、一度に全部というわけにもいかないだろう。秋には、クラフトピクニックも開催されるから、その時のためにも少し余裕を見ておきたいと思ったのだ。それで、せっかく来たのだから、陶器の方も見ておこうと、このC-3領域を眺めることにした。一つは、この人形を購入した。説明はいらないと思うが、実は先日の九州旅行の由布院温泉で、この人形のシリーズの中で「哲学者」と名前がついた人形に出会っている。制作者のMさんによると、その後由布院が今度の震災で被害を受け、これらの人形も壊れたものがあって、修復プロジェクトが立ち上がったそうだ。

Img_3880 わたしの買ったのは、「旅に出ます」と名前がついた人形だ。Mさんによると、三つのエピソードが詰まっているらしい。一つ目は、宮澤賢治が田んぼを歩いている姿だ。外套の姿には連続性が認められる。二つ目は、ニューヨークのエリー島に集められた移民審査の人びとだ。移民となると、カバンはもっと大きいかもしれないが、このくらい落ち着いていないと、今後どのような目にあうのか予想がつかない中で生きていくことができないだろう。そして、三つ目は収容所へ送られる前にカバンを預けられようとするユダヤ人だという。切羽詰まっている。Img_3881 題名からすると、もっと開放的なテーマがあったのではないかと思われるのだが、蝙蝠傘とカバンの組み合わせからすると、ちょっと暗い状況だったのだと思われる。反面、先日見た舟越保武の少年像もそうだったが、後姿がとても良いから購入に至ったのだ。

« 今年は取材で、クラフトフェアへ | トップページ | 面接授業の季節が巡ってきた »

仕事と趣味」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/63727459

この記事へのトラックバック一覧です: 子ども椅子展のヒアリング:

« 今年は取材で、クラフトフェアへ | トップページ | 面接授業の季節が巡ってきた »

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。