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2016/02/13

「恩地孝四郎」展へ行く

Img_2873 昨日は昼食の後、大学を早めに退散して、恩地孝四郎展を観に東西線の竹橋へ出た。国立近代美術館は、金曜日には夕方遅くまで開いているので、じっくりと鑑賞できる。Img_2913 わたしの原稿書きの調子からして、下旬になると予定が立て込んでくる予想があるので、これから迎える苦難の前に一条の救いを求めたのだ。

Img_2874 恩地孝四郎の名前は、かなり前から知っていた。記憶を辿ると、たぶん中学校時代にまでさかのぼることになるだろう。当時、池袋を通って、練馬区の大泉まで電車通学していたのだが、この池袋のいつも寄る書店の包み紙が、恩地孝四郎の装丁だった。どのような模様であったのか、見ればわかるだろうが、今ではあまりはっきりとは記憶していない。だが、この名前だけには記憶があるのだ。

Img_2876 展覧会場に入ってすぐに、油絵の自画像があった。途中にも幾つかの自画像が掲げられていた。それらを観て、これらは油彩であるのだが、いかにも版画的な絵画なのだと思った。ここでの版画的とは、色ごとに、刷りが異なり、それらが複合的にレイヤーを構成しているような描き方のことだ。それで他の恩地の絵画を見ていても、どうしても表現が版画的だと思ってしまうのだ。たぶん、これらの絵画をもし単体で見せられたら、きっと興味を示さなかったに相違ない。版画的に描かれているから、きっと表現上意味が出ているのだ、と思ったのだった。ということは、恩地孝四郎は最初から版画家だったのだと思う。

Img_2910 わたしが思うに、木版表現には絵画表現に勝る二つの版画的特徴がある。ひとつは、切り取ってきたような輪郭のはっきりした、エッジの切れた表現だ。浮世絵の多くは、輪郭のはっきりした表現でできている。もうひとつは、ベタ面の表現だ。木の持つ細胞の凸凹が刷られて反映される質感である。表面の示すザラザラ感がなんとも言えない。

Img_2906 恩地の初期の「月映(つくはえ)」時代には、黒と白とで、エッジの切れた木版表現を行っていた。これに対して、関東大震災以降辺りから、木面の豊かさを意識したような版画が多くなる。この時代で、好ましいなと思ったのは、眼鏡がなかったので、細かい字が見えなかったのだが、Img_2914 1922年の「卓上静物」(リンゴが素晴らしい)、1928年の「湖辺」、1930年の「朝」、1939年の「円波」などだ。後者の三つは、水色の使い方が木面を生かしたものになっている。「朝」は、その後何年か、同じモチーフで描かれている。

Img_2917 これらの後、恩地は戦後の「抽象画」時代に入っていくことになる。チケットの挿入画になっている1949年の「孤独」、詩集の表紙となった1950年の「雲は機械である」などに、興味を持った。

Img_2889

さて、近美の楽しみは、常設展示だ。こちらは写真を撮っても良いことになっている。なぜか、今回はこれまで何度も見てきて、見飽きない逸品が数多く展示されている。上記の恩地孝四郎の企画展では、写真が禁止されているのだが、こちらの常設展での恩地作品は、撮影OKだった。

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Img_2883 企画展の間に挟んだ東京駅がその作品だ。藤田嗣治の2作品は、堂々とした大作だ。作風が正反対であるのだが、この作家の特徴をよく表していると思う。この小林古径のりんごは透き通るようで、見飽きることがない。

Img_2878Img_2894Img_2900 Img_2909 今日の椅子は、近美の実際の椅子を取り上げようととも考えたが、やはり作品の中の椅子を二つ上げておきたい。一つは駒井哲郎の「歪んだ室内」、もう一つは、山口蓬春の描いたウィンザーチェアだ。両方とも、すぐにでも座ってみたい椅子だ。Img_2904

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。