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2015/12/06

卒業研究の成果が問われる季節だ

Img_2361 卒業研究の今年度締め切りが11月にあって、今はその審査にかかっている。放送大学の「社会と産業」コースでは多くの方々は、公開の審査発表会にかかることになっていて、それは来週13日の日曜日に予定されている。毎年、審査される人も、審査する人も、さらに議論を楽しむ人びとも集まって催され、最後は懇親会も用意されている。楽しい会がある。

Img_2333 じつは、今日行われるのはこの発表会に出ない方の審査であって、東京文京学習センターへ出てきている。Y先生の学生で、一人の思想家を扱った論文だ。放送大学は生涯学習の大学なので、大きく二つのタイプの卒業研究が存在する。一つは、これまで自分が関わった仕事・職業上の優位性を活用して、独自の研究論文を仕上げるタイプであり、学者の入り込めない世界を扱った論文もあり、他の通学制の大学にはおよそ見られない、放送大学ならではの論文が仕上がる。Img_2335 二つは、職業とは全く無関係に、自分がこれまで考えたことがないことに挑戦しようという、楽しむタイプの研究論文がある。欧米ではよく見られるタイプで、生涯学習の典型例として、玄人はだしの論文が仕上がることがある。けれども、楽しむためのものであるために、時間を十分にかけるということが必要になってくるという特徴がある。

Img_2336 今日の発表は、内容をいうわけにはいかないが、どちらかというと後者の部類に入っている。今日の論文審査では、審査官のわたしたちがやや引っ掛け気味に、挑発的な言説を弄しても、全く動じないで言い返してくる審査会で、議論自体たいへん楽しかった。あとを待っている人まで、時間が十分にあったこともあって、1時間を超える審査と議論とが続いた。Img_2362 このような楽しい議論があってこそ、1年間努力した甲斐が報われるというものだと思うのだった。もっとも、審査される方にとっては、針の筵の上で、チクチクと意地の悪い質問をされるのだから、次の質問を警戒して、楽しむどころではなかったかもしれない。でも、ほんとうの議論というものは、このような緊張感があって、初めて成り立つものだと思われるから、通常のゼミの議論とはやはり異なるシーンが行われるものだと思われる。

Img_2359 わたしの経験でも、思い出深い審査会に受ける立場で何度か出ている。その時に、いろんなことが起こるのだ。社会科学の議論では、ケインズの美人投票ではないが、その議論の大勢が重要になる。そこで、議論の筋を見つけようとするのだが、味方だと思って議論の同意を求めると、途端に裏切られてしまうこともある。Img_2365 とりわけ、審査の席上では、あえて挑発的な発言をして、逆のことを述べて、その答え方で判断するような風潮があるので、要注意なのだ。Y先生は、審査の席ではそうではなかったのだが、指導の時には思考実験として、取り上げる思想家と全く逆の立場の思想家と比較することを勧めるそうだ。議論は、対立にこそ面白みがあるのだ。

Img_2337 審査場を後にして、「春日」で都営線に乗り換え、板橋区の高島平の公園にある「板橋区立美術館」へ向かった。松本竣介や麻生三郎たちと新人画会で活動していた「井上長三郎・照子」の展覧会が開催されている。

Img_2338 今日の一枚は、何と言っても、ドン・キ・ホーテ像のある「主従」だ。展示されているものなので、ここに表示できないのが残念なくらいだ。受付を抜けて、ホールから会場へ入って右側に掲げられていた。第1に、力が抜けている感じが色に出ている、第2に、狂気と正気の二重性がうまく現れている、第3に、素描から形造りへのダイナミックな動きが現れていること、これらがどっと迫ってくる。Img_2346 これまで、多くのドン・キ・ホーテ像を見てきたが、この絵が一番良いとわたしには思われる。ドン・キ・ホーテ像では、馬が大きくて、ドン・キ・ホーテは痩せて心持ち小さく描かれており、それに対して、サンチョパンサ像は太く大きく、ロバは小さく描かれている。物語が二人の周りに溢れている。

Img_2341 そして、最晩年の娘像は、丸々とした体つきに素朴な色使いを見せて、外連味のない、最後に達成した境地を表していた。その脇を通って、ホールへ出た。ホールには、額に納められていない、二人の小品が並べられていた。ジャズメンたちの肖像画が幾つかあって、多彩な顔の線画がたいへん興味深かった。Img_2348 これで思い出したのは、やはり松本竣介が晩年になって、二重線や二重輪郭で人物や構造物を表していて、独特の描法を持っていたが、雰囲気は異なるのだが、やはりこの二重描法が井上長三郎でも使われていて、特に彼の場合には、戦後はほぼ一貫して、この描法を使っていて、面白かった。Img_2357 政治家たちや社会現象を描くときには、この二重線の意味は直喩的に明らかだったが、それ以外の二重線の意味はどこにあるのだろうか、と想像しながら、楽しんだのだった。

Img_2350 今日の椅子は、美術館の1階の休憩所にあった赤い椅子だ。まずはテーブルが素敵な一枚板の広い机で、この場所ではなんとなく役不足という感じで、尊大な厚さと広さを誇示していた。この赤い椅子は、そんなテーブルをなだめるように、色彩で可愛らしさを出していて、このコンビネーションが面白かったのだ。今日の展覧会の井上長三郎と照子は、これとはちょっと違うコンビネーションで、「妻は空気、わたしは風」という爽やかで、かつ意味深いコンビネーションを見せる展覧会だったのだ。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。