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2015/09/17

雨の中の散歩

Img_1375 このところ、いろいろな締め切りが続いてやってきている。研究雑誌「社会経営研究」「社会経営ジャーナル」の編集も、いくつかの段階の締め切りを経て、佳境に入ってきている。査読が一巡して、編集作業への移行期を迎えている。原稿締め切りのあと、査読結果が届き、編集委員会の原稿整理も進んできた。Img_1377 すこし遅れ気味の作業だが、何とかペースを上げようとみんな頑張っている。いつも無償ながら仕事を引き受けてくださっている、査読担当の放送大学の先生方と編集委員会の方々へ感謝申し上げたい。1日のうち、10分の1ぐらいの時間しかこの作業へ割くことができないために、進み方はノロいが確実な歩みを保持したい。あと、1ヶ月半で何とか形あるものへ持っていきたいと願っている。査読と編集を経て、応募論文がどのように変身を遂げるのかが楽しみだ。

Img_1378 この時期に集中するのが、この編集作業と2学期の試験問題作成である。忙しい時に必ず重なるのだ。それで、今年は1週間前に済ませようと考え、後者もノロいが確実な歩みを保ったところ、1日前には何とか出すことができた。というのも、昨年まではかなりの科目に関わっていたのだが、今年は終了した科目が出てきたので、作業がかなり軽減されたのだ。

Img_1379_2 このような忙しい時に起こるのが、日付の間違いである。まだまだ歳のせいだと言いたくはないが、それでも確実に証拠が上がってきている。Img_1376 カレンダー表を見間違えて、てっきり今日は金曜日だと思い込んでいた。妻に指摘されなかったら、危ないところだった。それで1日得をした気分になって、さっそく今日木曜日の散歩計画を立てることにする。

Img_1380 雨が降ってきて、散歩にはどうかとは思ったが、かえって空いているのではないか、と考え直した。歳相応に楽観主義が身についてきているらしい。京急線から東横線へ入って、武蔵小杉駅へ降りる。駅のロータリーでは、バスの待合場所の屋根が素晴らしく大きくて、横から吹き付ける雨も霧状になるまで防いでくれるのだ。Img_1395_2 ベンチに腰を下ろして、ゆったりと駅前の風と雨を堪能する。雨の駅で人びとが傘をさしたり閉じたりするリズムの大らかさを感じることができるし、そのリズムに合わせて人びとが交錯していくのは、海で波が満ちたり引いたりするのと同じだ。

Img_1382 バスで20分くらいのところに、川崎市民ミュージアムがある。「木村伊兵衛写真賞40周年記念展」が開催されている。現代人の多くが、自分の目で生のままの姿をみるのではなく、写真を通して現代というものを認識するようになってから、かなりの月日が経っている。Img_1394 この「木村伊兵衛写真賞」は、現代社会をスナップ的に切り取ってしめす、写真家の新人登竜門として特徴がある。

当時は新鮮であったかもしれないが、その後手法が定着された、手練の作品を一堂に見ることができるのだ。だから、「懐かしい」と思える写真がたくさんある。Img_1393 たぶん、肌の中に染み入るように、これらの写真が常識的なものとして、わたしたちはすでに認識しているのだと思われる。

わたしの記憶におぼろげながら置かれているような写真がいくつか並んでいて、とりわけこれまであの写真の撮り方は、誰の撮り方だったのか、ということを確かめるためには最高の展覧会だと思う。Img_1385 たとえば、第4回受賞者の石内都氏の「アパートメント」の写真は、「ああ、これだったのか」と思わせるものだった。写真の肌理が粗く取ってあって、いかにも古そうなアパートメントの薄暗い部屋の性質を強く印象付けている。第7回受賞者の渡辺兼人の「既視の街」は、離人症的な感覚を写真に定着させている。知らない街を見ていて、遠くに見えるのだが、どこに焦点があるのかが鮮明にわかる写真だ。この撮り方にも、憧れるのだ。

Img_1384 この市民ミュージアムは、都会からちょっと離れて、ぼうっとしたいときに来ると良いと思う。所蔵品はアニメがあったり写真があったりして面白い。庭がたっぷりとあって、都会を遠望する建物の、その真ん中に産業遺産のトーマス転炉(日本鋼管)が置かれている。Img_1387 これをみると、日本もかつての英国と同じように、鉄の時代が過去になりつつあるのを感じるのだ。

Img_1402 南武線へ出て、鹿島田で下車する。早大のO先生がよく来る「パン日和 A」で腹ごしらえをする。川崎で映画を見ようと思うのだが、最後は9時近くになってしまうので、今のうちにすこしお腹に入れておきたいと思ったのだ。この店には、初めて来たのだが、O先生のブログで見ていたので、初めての気はしない。けれども、現実に店に入ると、椅子とテーブルの調合バランスや、抑制された照明の具合など、居心地のよさを感じさせる雰囲気が素晴らしい。Img_1407 よくぞ、この店を見つけた、とO先生の功績を称えたい思ったのだった。天然酵母特有の時間をかけて膨らませた「パンの味」と、珍しい「さつま芋スープ」、そして、今月の飲み物として「紅茶とジュースのミックス」をいただいた。女主人の方から、椅子のコーディネートに関心があるとのことで、飛騨の木工カタログを見せてもらいながら、この店の椅子とテーブルの成り立ちを解説してもらった。Img_1405 なるほど、そのような考え方もあるのか、という説明があって、たいへん参考になったのだ。帰り際に、託児所帰りの親子連れが立ち寄った。パンを買ってもらった男の子が、ほんとうに嬉しそうな顔をするのだ。赤ちゃんのときからずっと買いに来ている客なのだそうだ。

Img_1411 川崎に着くと、人混みの多さに辟易とする。このように都市化がまだまだ続く街がある一方で、信州のO市のように過疎化が進む街があるのだ。映画までの間に、いつもの珈琲豆屋さんで、ガテマラとタンザニアの豆を購入し、薄口のコーヒーを一杯飲む。

Img_1415 映画は、「ヴィンセントが教えてくれたこと」。原題は、「聖ヴィンセント」。つまりは、市井の人であっても、「聖人」であり得るというテーマの映画だ。ビル・マーレー主演ものだというところで、真面目さがうまくはぐらかされて、娯楽性が出ている。ほとんど、ビル・マーレーのギャグにお付き合いするという趣旨の映画だ。たとえば、彼の愛人が妊娠しているのだが、「破水しそうだ」というセリフに続いて、マーレーが「配管工を呼べば!」と言うといった調子の会話が次から次へ続いていく映画だ。もちろん、最後には十分に泣かせるシーンがあるから、この映画を目指す人は、泣く準備をしていったほうが良いと思う。Img_1414 泣くぞ、泣くぞと思っているうちに、感情が高ぶってくる映画だ。だから、最近あまり涙を流したことがない人は、たまには、このような映画を見て、生理現象を正常に保つことをお勧めしたい、などと言うことが、推薦の言葉になるかどうかはわからないが、ビル・マーレーの演技は、どこか人嫌いなところがあって、人からも嫌われるのだが、どうしても憎めない性格を演じていて、たいへん興味深いのだ。カンファレンス室のAさんは、すでにこの映画を見ていて、ボブ・ディランの好きな人向けの映画だ、と謎かけを行っていた。この謎は最後にわかるのだ。Youtubeに、そのシーンがどういうわけか、アップされている。

Img_1417 ということで、横浜から武蔵小杉、鹿島田から川崎、そして横浜へという円環を最後には閉じる散歩を成立することができた一日だった。今度は、O先生に付いて、鹿島田のパン屋さんへ行きたいものだ。じつは、このパン屋さんには、アルコール類も置いてある。パンでワインをといきたいのだ。唯一の難点は、O先生が飲めないというところだけなのだ。

Img_1389 今日の椅子は、川崎市民ミュージアムの中に展示?してあった木製のベンチだ。なぜか、監獄に繋がれているような雰囲気の様相を表している。ひとつには、ベンチ同士が鎖で繋がれているし、さらにベンチの真ん中には、あとで無理やり取り付けたような間仕切りが金具で取り付けられている。Img_1391 凝ったことには、座板の下からも補強が行われていて、執着の程度が並ではないことを示している。「過酷なベンチ」と名付けておこう。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。