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2015/09/05

酒造りもクラフトだと思った

Img_2251 今日は、O市挙げての「三蔵呑み歩き」という催しがある。O市にある3つの酒蔵で、蔵出しの酒が振舞われ、食べ物のもてなしがある。数千人の人びと(呑助・呑ん兵衛)が集まるのだ。松本からもこのためのJR大糸線の特別列車が仕立てられる。

Img_2254 諏訪市のイベントにも同じような「呑み歩き」があり、それを模倣して、今回で8回目となるらしい。それで、近くの「酒の博物館」へ行って、参加証となるお猪口を購入する。洒落た巾着がついてくる。

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Img_2008 街に出て、少し早かったけれどもお墓まいりを済ませて、精進落としというわけでもないが、三蔵の中でも、一番小さな酒造メーカー「北安大國」へ向かう。「一番小さい」ということをわざわざ売りコピーにしている。酒造りもクラフツだと思った。Img_1965 大手酒造メーカーと違って、小ロット生産を旨とする。手仕事で決まる部分がかなりある。まだ、開始までにかなり時間があるので、料理はラップに包まれていて、呑み歩きの客はほとんどいない。それで時間になるまで、蔵の中をずっと見せていただいた。メーカーの人も、準備に余念がない。Img_1972 「みんな呑むほうに夢中なので」とおっしゃって、「洗米」と「蒸す」場所までは連れて行ってくださったが、その奥の蔵と二階麹室の説明までは付き合って下さらなかった。貯蔵タンクが並ぶ蔵の階段を上って、大きな広い板間に出た。Img_2009 100畳くらいはあるのだろうか。麹つくりに使われる部屋だ。米を運ぶ布が干されている。Img_1977 今日は、書道家が大きな書を並べていた。運動会が屋内でできそうな、大きな部屋で、今まで見た板敷きの部屋としては、最大級の部屋ではないかと思われる。

Img_2013 表玄関の試飲の場所へ出たが、まだまだ1時間もあるので、近くのA倉で催されている、陶器・雑器展を見る。このころになると、O駅から大勢の人々が上ってきて、酒蔵目指して、大移動が始まったので、Img_2024 わたしも酒造メーカー「白馬錦」と定めて、門の前で待つことにする。ここでは、抽選で当たった人が、「鏡割り」を行うことになっているのだ。Img_2040 秒読みをして、いよいよ呑み歩きが始まった。盛大に割って太鼓のような音がするのではないかと期待していたのだが、Img_2061 どうやら、あまり強く打つと、中の酒が跳ねてしまうので、静かに打ったようなのだ。Img_2057

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クラフツ生産に必要な相対取引習慣をどのように維持するのか、これは口少ない職人メーカーにとっては工夫のいるところだ。「鏡割り」のようなポトラッチは、人びとを饗応するにはもってこいの儀式だ。

Img_2046 このところ、最初に呑む酒が一番旨いのだ。今日も、「無濾過生原酒」という樽から出して、火入れを行わない、つまりは複雑な味をそのまま保つ酒から、始めた。これは、良かった。フルーティで現代的だ。ワインに対抗する種類だと思われた。そして、辛口の「大吟醸」、季節の「秋あがり」、純米酒、そして、呑み歩き特別蔵出し「雪嶺」へと進んだ。特別品は、アルコール度が21%もある。Img_2051 この蔵だけでも、9種類、さらにお燗コーナーまで含めると、10数種類以上の試飲ができることになる。そして、実際にそうしたのだった。これだけの人数がどこから来たのだろうか。Img_2056 大通りはあいかわらず、シャッター街が続いているのだが、ここだけはなぜか、人がこんなに集まっている。この違いはどこにあるのだろうか。Img_2054 さて、ここだけでも、たいへん仕合わせな気分になってしまって、腰を落ち着かせて、呑みたい気分だったが、さきほど見てきたところも気になり、良い気分のまま、千鳥足で北へ進路を取ったのだ。街全体、歩いている人みんなが揺れているので、一人だけ酔っているような感じにはならない。Img_2052

「北安大國」でも、まず飲んだのは、生原酒だ。ここでも、これは呑みやすい。パンフレットによれば、ここは小さいので特色を出すことに、それも甘口にこだわっているのだそうだ。Img_2069 それで、鏡割りした樽酒を呑むと、これがまた良い味をしている。ここの特色は、さらにもうひとつあって、赤い古代米を使った清酒を作っている。Img_2075 これも悪くなかった。たぶん、お米の特徴をうまく取り出しているのだと思った。店先のそれほど広くない土間は、呑助たちで満杯だった。みんななぜか幸せそうな顔をしている。

Img_2097 最後に訪れたのは、「金蘭黒部」だ。ここは、大通りに面していて、さらに黒い建物と蔵がずっと奥まで続いている。酒を運んでいたと思われるレールが敷かれているのも見られる。Img_2098 明治以来のこの蔵の歴史だけでも相当なエピソードが隠されているのではないかと思われる。酒もさることながら、まずは蔵の奥へ向かった。そこでは、主人らしき方が、蔵の歴史を説明しながら、珍しい建て方を解説くださった。Img_2106 蔵が左右にいくつか並んでいるのだが、それらを全て覆い尽くすような木造の屋根「置屋根」が付けられている。しかも、それぞれ置かれている蔵の高さには段差があるのだ。Img_2112 それら段差を克服して、複雑な構造を見せて、アーケードのように数十メートルもの木製の置屋根が続いているのだ。つまり、雨や雪に左右されることなく、酒造りの作業が可能な作りになっているのだ。Img_2125 これらの蔵には、その昔ガラス瓶はなかったので、小さな樽で売られていたらしい、その小さな樽も柱の隙間から、山になっているのが見えたのだ。Img_2140





Img_2149 最後は、もう一度、「白馬錦」へ向かった。最初に飲んだ「無濾過生原酒」で最後を締めるつもりだった。結局、お猪口が一杯で20ccだとして、全部で20数種類のお酒を呑んだことになるから、合計では、400ccくらいを呑んだことになるのだ。量としたら、そんなに多い量ではないだろう。Img_2152 けれども、種類がかなりの数に上っているので、多く呑んだような気になっているのだと思われる。数人で一緒に来ている人びともいるが、一人で来ている人びとも結構いた。

Img_2164 わたしのとなりに、観察に余念がない方いらっしゃったので、話をする。なんと東京のAからきたとこのことで、イベント担当者だそうだ。この酒造メーカーを含めた「呑み歩き」をAで行っているのだそうだ。Img_2166 彼が言うには、「ぜんぜん違いますね。」参加者の熱意や全体の雰囲気がこちらの方が上なのだそうだ。値段の差もあるらしい。Aでは、参加料が4千円で、こちらは千5百円なのだ。呑助たちのコストパフォーマンスは圧倒的に、こちらの方が良いだろう。

Img_2169 けれども、この方の端々に出てくるのは、「採算性がこれで取れるでしょうかね」という言葉だった。なるほど、Aに集まる人びとの多くは、4千円払って、どのくらいの満足が得られるかが勝負なのだ、と思ったのだ。Img_2004 ここがクラフツ生産の異なるところなのだ。採算性を度外視したところで、ポトラッチとして、1日だけ散財する。ここに楽しみがあるのだ。

Img_2183 帰りのシャトルバスの中も、まだまだ酔いが冷めない呑助たちで、いっぱいだった。キンキンと響いてくる会話の声に揺られて、家路を急いだ。


Img_2197_2 今日の椅子は、呑み歩きの最後に用意されていた、仕合せなヨッパライたちの木製ベンチだ。ヨッパライという呼び名は、今日に限っては立派な名誉称号だ。何やらみんな少し赤い、愉快そうな顔をして歓談している。手から吊り下げているのは、呑み歩きの参加お猪口の入った巾着である。楽しかったお酒を反芻していらっしゃるのだと思われる。William_hogarth__beer_street この図で思い出されるのは、英国の画家ホガースが描いたビール街とジン横丁である。ビール街では、上記と同じような木製のベンチに腰掛けて、裕福そうな人びとが呑んでいる図になっている。仕合せの極致を描いている。ところが、ジン横丁では皆地べたに腰を下ろし、スツール椅子は見えるが、坐られてはいない。地獄図が描かれている。Imgd6d523a3zik8zj 酩酊文化には、二種類あって、天国と地獄だ。今日の三蔵呑み歩きは、この写真では前者だったに相違ない。それがわかるのは、ちゃんと椅子ベンチに腰掛けているという表象を守っているからだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。