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2015/08/21

もし田舎でずっと勉強できるなら

Img_1223 O市で研修生活を送っている。研修とは何か、というのは難しい質問で、わたしの生活はすべて、日々研修じゃないかと言われれば、その通りであるし、研修ではなく、遊びだろう、と言われれば、なるほどその通りなのだ。大学の生活のもっとも良いところは、遊びがあるところだといつも思っているくらいだ。

Img_1263 それで、もしO市で暮らし、松本市の図書館へ通うという生活ができるならばと考えないでもなかった。これはいつも、目指したい老後生活のパターンなのだ。今回、少しながらそれが可能になりつつある。来年度の放送教材の取材地に、松本市を選んで、昨年辺りから取材の計画を立てているのだ。もっとも全体で5年間くらいかかりそうな壮大な計画なので、ちょっとずつ進めている。今回も、取材の準備で、松本市の郷土資料が必要になり、1日かけて、O市から出てくることにした。

Img_1260 朝8時のコミュニティバスに乗り、さらに大糸線で南下した。歴史上、アズミ族、遅くなってニシナ家が支配した地域らしく、ビャクヤチョウ、ホタカ、トヨシナ、ヒトイチバ、アズサなど、異郷と見紛う地名が並ぶ。松本駅から北市内西回りバスに乗って、城山公園下につく。道なりに2、3分で旧開智小学校、神父館などが集まり、北には深志高校もある文教住宅地区へ入る。ここに、目的の松本市中央図書館がある。

Img_1228 その昔、わたしが小学校時代には、図書館は現在の松本城門横の市立博物館のところにあって、20インチの小さな自転車で通ったものだ。小学校には、学習用の図書はあったが、それ以上のものになると、やはり市立図書館へ出向かなくてはならなかった。30万人くらいの小都市だったので、市内の隅から隅まで、ほぼ自転車で行くことができ、なんでも調達できた。

Img_1236 今日の図書館では、テーマは木工の松本民藝家具を創業した「池田三四郎」だ。彼の著書20冊くらいが、郷土資料コーナーに固まっている。検索で調べたところ、東京圏では、「池田三四郎」はそれほど公共図書館では知られていない。たとえば、大学図書館検索でみると、あの東大には、1冊しか所蔵されていない。もっとも多く所蔵しているのが、早稲田大学で堂々4冊所蔵なのだ。この郷土資料コーナーの恩恵は明らかだ。

Img_1273 読んでいてとくに面白かったのは、民藝の「経営」部分だった。美しい椅子やテーブルを作ろうとすると、割高くなる。けれども、民藝だから庶民に用いられなければ意味がない。この葛藤が、民藝の本質なのがわかって、たいへん参考になったのだ。

Img_1233 著書を端から読んで、写真を眺め、気がつくと、三時間が経っていた。小腹が空いてきたので、3階にある喫茶店Pの窓側の席を占める。えびピラフを注文する。もちろん、コーヒーは自分のポットに淹れてきたものを飲む。喫茶店「パノラマ」というくらい、景色は素晴らしい。最近は老人性の目になってしまって、すぐに疲れる。遠くをみれば、目に良いという言い伝えを信じて、ピラフを食べながら、遠くをずっと見ていた。

Img_1239 読書していると時間の経つのは早く、あっという間に夕方になってしまった。ここから歩いて、20分ほど登ったところに、城山公園があるのだが、そこに隣接しているギャラリー喫茶店「I」へ向かう。途中、工事している人に、この辺に喫茶店がないか、と聞くと、こんなところに喫茶店はないべ、という答えが返ってきた。Img_1242 城山一帯は、以前からピクニック地帯で、遠足などによく使われた思い出がある。公園から地続きに、喫茶店のアーチが見える。緑いっぱいの喫茶店だ。森の喫茶店が目の前に出現した。

Img_1244 コーヒー茶碗がたっぷりしていて、ケーキ皿も葉っぱ模様が素晴らしい。塩アイスとガトーショコラを堪能し、肩の疲れをほぐしながら、大糸線へ戻る算段をゆったりとしたのだった。Img_1249 帰りは下りで、バスを使わず、30分くらいで松本駅に着いた。

じつは途中、一箇所だけ寄り道をしてしまった。洋菓子店Tを通りかかると、目の端にアップルパイの姿が止まった。Img_1256 ふつうならば、そんな女性のような目の状態ではないのだが(女性がそんな目をしているというのは全くの偏見なのだが、いつも菓子店のショウウインドウを見るたびに、男性の視線と女性の視線は違うことを意識していたのだ)、Img_1257 図書館で20冊あまりの本を読んだ後なので、ちょっと位置がずれていたのだろう。つられて、店へそのまま入ってしまった。さらに悪いことに、アップルパイのはずが、ショウウインドウの中央を占めている「まるごとピーチ」に目がいってしまった。Img_1283 でも、これは当たりだった。中はこのように甘さ控えめのカスタードが入っていて、桃の慎ましさとクリームの優しさが、今日の研修作業を慰めてくれたのだった。

Img_1219_2 今日の椅子は、O駅に設置されていた木製のベンチだ。この特色は、横の荷物置きが箱になっているところだ。通常、このようなアイディアは、肘当てから発達するものだが、明らかにこの荷物置きは、肘当てではない。それにしても、手間がかかっている荷物置きなのだ。たぶん、素材の間伐材をたっぷり使うというところに、このベンチの大きな意味があったのではないかと、ちょっと穿った考えがちらついた。Img_1221 けれども、こうして写真に撮ってみると、それは邪推にすぎないことがわかる。全体のバランスとして、坐るところと荷物をおくところがぴったり合っているのだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。