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2015/07/04

映画「ターナー」を観る

Img_0692 中央区にある千葉劇場に、英国19世紀の画家ターナーを描いた伝記映画が来ている。マイク・リー監督作品だ。ポイントは、謎めいた人生を縦につないでいる「旅」だ。けれども、あまりに旅先や旅から帰っての家やアカデミーでの奇異なエピソードが多いので、これがほんとうの事なのかと疑ってしまいそうである。

たとえば、船の帆柱に身体を縛りつけて、船のしけ状態を体験するなどだ。また、この映画が女性から評判が悪いのは、たとえばターナーの行儀が悪いせいだ。人前で早業の絵を描くときに、唾を画面に吐きつけて、それを筆で伸ばして、描いていくのだ。絵画のロマン性がたちどころに消えてしまう場面だ。

「旅」から帰ってくる場面から映画は始まる。ここで持って歩く道具が、素敵だ。生成りの旅行用画材セットが常に旅の友となる。研究者がフィールドワークを行うのと同じような感覚で、旅に出ていたのかもしれない。画家というよりも、博物学者という面をもっていたのかもしれない。

ターナーが英国に生きた時代には、すでに蒸気船や蒸気機関車、さらに写真機が出てくる時代だ。もし写実的な絵画を描きたいと思ったとしても、機械に先を越されていた。ターナーは、ここで英国で並び立つ同時代画家のコンスタブルを上回る、絵画的真実を提示する必要に迫られていた。そこで、風景を描くのだが、具体的な事物を超えた光の情景を描く画法を追求することになる。それは、のちの印象派が完成させることになるのだが、しかし、写真という具象に優れた機械時代の画法というものを意識していたことは確かである。なぜ絵画を描くのか、という問いがターナーには見られる。

光の風景のなかに、特別な靄がかかっているように、周りとの境が不分明な主題が描かれている。ときには歴史的な事件であったり、田園に浮かぶ城郭であったりする。たとえば、光のなかから、ぐぐっと現れる蒸気機関車は印象的だ。この絵画はわたしの大先輩たちがかつて翻訳した旧版のK・ポラニー『大転換』に出てくるので、その表紙に使われたこともあった。

「旅」がポイントになっていると思われるのは、ターナーという個人が根無し草的であったからだ。家にあっては、妻から疎遠になっていたから、父の家での父や召使いとの関係が重要になるし、学生時代に住んでいた街を、名をなしてから旅して、泊まった宿の女主人と出来てしまうのも、そこで自由を感じることができたからだ。つまり、背景や周囲、さらには環境というものとの関連を曖昧で、靄がかかったように描いており、そのなかでトピックとなるものだけを取り上げて、俎上に載せたのだった。この点で、ターナーの人生と絵画とは、奇妙な一致を見せている。多くは謎のままで、ところどころ、鮮明なターナーが活きているのだ。

Img_0696 今日の椅子は、千葉劇場の観客用の椅子だ。他のところと変わらないのだが、やはり通い詰めると愛着が沸くのが、この映画館の椅子だ。右を見ても、左を見ても、観客がいないのは空いているからのこともあるが、わたしが劇場の前のほうに座るからで、両側に客がいないばかりか、こんなに前の列で映画を見る人もいないということだ。それでゆったりとして、周りを気にすることなく、映画を鑑賞できる。

Img_0694 特別なのは、コーヒーだ。千葉劇場では、出来合いのコーヒー自動販売機でこのカップコーヒーが売られているわけでなく、ポットにちゃんと淹れてから提供されていて、コーヒーの新鮮度が違うのだ。それで、ここで映画を見るときには、ほぼ必ず、この美味しく淹れてある劇場コーヒーを飲むことにしている。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。