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2015/07/08

ルーシー・リー展が来ている

Img_0704 ルーシー・リー展が千葉美術館に来ている。何年か前にも、ルーシー・リーの展覧会はあったのだが、今回そのときと印象が違っていた。それは、代表作連発時代の色鮮やかに反転するスパイラルな陶磁器が、今回はそのときよりも少なくてちょっと物足りないと感じたからだ。

Img_0700 けれども、今回の展覧会は、それを補ってあまりあるほどの、以前の展覧会とは異なる作品群が来ている。それらは、初期の作品だ。彼女が学校を出て、その後のオーストリア時代の初期作品が来ている。1920年代の赤釉鉢などには、その後の痕跡がわずかに残っていて、面白いのだ。

以前から、不思議に思っていたことがある。ちゃんと調べれば、おそらく評論家の間では、解っていることだと思われるが、このような作品の場合には、他者に聞いてしまうよりは、自分で推理して楽しむことを行っても良いだろうと考え、あえて調べないことにした。

それはルーシー・リーを観れば誰もが感ずることであって、なぜこんなにも器が薄いのかということだ。みんなの感想をざっとウェブサイトを覗いてみても、「緊張感ある薄さ」「透けるほどの薄さ」「女性らしい薄さ」「極限を追求した薄さ」「実用的でない観賞用の薄さ」など独特の薄さを報告していて、この器の薄さが彼女の特色であることは誰もが認めるところだ。

問題は、なぜルーシー・リーの器は薄いのか、という点であって、これがたいへん興味深いと思うのだ。それで今回ひとつの疑問が解けた次第なので、「補ってもあまりある」と上で書いたのだ。つまり、彼女の器は、初期の英国へ渡る前から、一貫して「薄い」のだ。もちろん、デザインはかなり違っていた、英国で見せるようになる構成的な手法は見られないから、シンプルな薄さなのだ。

Img_0870 この薄さのひとつの理由は、技術的な問題かもしれない、と最初は思うかもしれない。たとえば、分かりやすくいえば、陶器で製造すればやや厚くなるし、磁器で作れば強く薄い加工が可能だ。それで類推されるのは、英国に渡って、温度を高くすることのできる磁器用の窯を手に入れたから、「薄さ」を追求できた、ということも考えられる。ところが、今回の初期作品をみると、ウィーン時代の陶器用窯でもこの特徴ある「薄さ」をすでに行っていたことがわかるのだ。また、英国に渡ってからも、磁器だけではなく、陶器でも薄さは追求していることがわかる。したがって、技術的な理由は、ほぼ否定されることになる。

Img_0699 もうひとつの「薄さ」の理由は、デザインの問題だと思われる。最初から、薄さをデザインの基本とした、ということが成り立つのだろうか。当時のウィーンでのデザイン事情との関係で「薄さ」を選んだ可能性は否定できない。初期からの趨勢をみれば、それは事実として存在するのだ。デザイン選択の何らかの理由があって、初期から晩年に至るまで、ずっとこの「薄さ」を採用する理由があったに違いないのだ。そのことは、時代をめぐるいくつかの「薄さ」をめぐる確執に現れている。たとえば、これは推測に過ぎないが、当時英国の陶器作家の第一人者であった、バーナード・リーチが英国に渡ったルーシー・リーの作品を当初は批判した、という事情はいかがだろうか。民藝運動や英国の伝統的な陶器制作の系譜から見れば、明らかに、薄すぎて実用的でないという評価が出てしまうのは想像できるところだ。けれども、ここで強調しておきたいのは、これらの中核からの批判にもめげず、この「薄さ」を続けたところに注目点があって、なぜこれほど「薄さ」のデザインに執着したのかが、かえって興味を引く点なのである。

Img_0702 後期になれば、「薄さ」にこだわった理由は、いくつか上げることができる。ひとつは、デフォルメだ。ろくろで形を整えたのちに、それを様々な方法でスパイラルに広げ曲げていく。このときに、この「薄さ」のために、デフォルメしやすいという利点がある。最後に、ぐにゃと形を崩すときに、全体のバランスが「薄さ」を要求しているのだ。英国に渡って、構成的な方法を獲得して、二つの部分に分けて制作が行われることも、「薄さ」に関係しているに違いない。Img_0218 けれども、初期からなぜこの「薄さ」なのか、もうすこし頭のなかで楽しんでも良いと思っている。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。