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2015/04/22

映画「陽だまりハウスでマラソンを」を観る

Photo_2 ドイツ映画「陽だまりハウスでマラソンを(原題:Back on Track)」を観る。この原題から、どうしてこのような邦題が出てくるのか、いつもながら不思議な気持ちになるが、原題からすれば、「再びトラックに立つ」ということだろうが、日本の客を意識すれば、「運動トラック」を強調するよりは、「老人ホーム」のほうを強調したほうが、客が増えるという、映画配給会社の判断があったものと推測するのだ。

元オリンピックのマラソン優勝ランナーであるパウルの物語である。オリンピック・アスリートがセカンド人生をいかに過ごすのか、というひとつの典型的な物語に仕上がっている。原題にあるように、主人公はかなり強気だ。老人ホームで引退人生を過ごすよりは、元の人生に戻り、現役と混じって過ごすことを最終的には選択する。その過程で、妻が亡くなり、娘の難しい人生に向き合い、老人ホームとの葛藤を経験するという、筋書きだ。

問題となるのは、ふつうの人と違って、人生の前半でオリンピックに優勝してしまうという賞賛を浴びることになり、その後静かなセカンド人生を過ごすことができるだろうかという点である。妻と二人で静謐な生活を過ごそうとするのだが、妻が倒れてしまって、老人ホームに入る頃から、セカンド人生の緊迫した問題が起こることになる。

つまり、アスリート特有の問題が出てくることになるのだ。そのひとつの問題は、「激越性うつ病」である。最初に大きく成功してしまうと、その後に大きな挫折感が必ず伴う。ここで、精神的な悩みを生ずることになる。主人公のパウルも、本人はそれを否定するのだが、その気配は明らかに見られ、この手の人が老人ホームに入ってくると、通常は最も嫌われるタイプになるのだ。前の人生から転換できずに、老人ホームになじまないのだ。

ここから、ドイツ風老人ホームと、日本風老人ホームの共通点と相違点が出てくるのだ。どちらのホームでも、みんなそろって、馴染んだ人も馴染まなかった人も、同様に集団遊戯を行うことは共通している。映画では、真面目な「倫理的カウンセラー」ミューラーの音頭で歌を歌ったり遊戯をしたり、「クリ人形」の工作をしたりするシーンは、現実には未だだと思っていても、ここではつい、自分の母親(あるいは自分自身)が施設での生活を過ごす姿を想像してしまう。認知症の出てくる世代にとっては、この集団的な生活は致し方ないのだろうか。ところが、ドイツの老人ホームでは、もっと個性的な過ごし方がある。もっとも、ドイツだからというと、ちょっと語弊がある。

けれども、ここからはドイツと日本との違いが明らかになっていく。この映画では、70歳を超えたパウルがベルリンマラソン目指して、走り始めるという出来事が起こり、これを巡って、周辺の騒ぎが巻き起こることになるのだ。ここには、いつも寄り添って生きて来た、走りのパートナーとしての妻の存在が大きいし、マラソンランナーの家庭に育った娘の反応も難しいところがあることがわかり、さらに老人ホームでの影響はたいへん面白く描かれている。

運動選手が再びトラックに戻る、というセカンド人生を選んだ時に、どのようなことが起こるのかが、この映画の面白い点なのだ。それには、それを支える人びとが必要であることは当然だ。それは、応援という意味でも支援という意味でも必要であるということだと思われる。

結末は、映画を見てからのお楽しみなのだ。それにしても、最近になって日本の老人ホームにもお金さえ出せば洒落た建物のところが増えてきたが、ドイツの老人ホームのデザインは、もっと余裕があるように思えた。そしてさらに、セカンド人生には、それを乗り越えるユーモアが必要なのだというところも、説得力があった。映画では、何回も出てくる主題歌「ラ・メール」が流れ、その歌詞に関係していると思いきや全く関係ない「風と海」の比喩が効いていたと思う。「海」から付かず離れず、その上を「風」のように吹いて生きられたら、セカンド人生も楽しくなるにちがいない。わたしも「風の星」のもとに生まれているのだから、せめて精神的には、風が吹いていくように、海の上を触りながら離れながら、セカンド人生を暮らしたい。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。