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2014/06/25

水彩画が日本にマッチした時代

Img_6559 父が集めていた雑誌「みづゑ」が家にすこし残っている。わたしが生まれたころの時代のものだ。そして、幼稚園のころ、わたしは絵画教室のある幼稚園へ通っていて、描いた絵を先生に褒められた経験がある。たいへん気を良くしたのを覚えている。成功体験ということがあるとすれば、これ以上のことはないだろうというくらい思い上がってしまった記憶があり、そののち、これが萎んでしまうまで、何回か水彩画の児童コンクールに応募して、ニューヨークなどへもわたしの絵画が行くなど、いくつかの賞をいただいた。これは父の趣味が乗り移っていたのだと、今になってみると思っている。いまでは、絵心がすっかり廃れてしまって残念なのだが。

Img_6549 この雑誌「みづゑ」を創刊した水彩画家「大下藤次郎」の展覧会を、千葉美術館で観る。大下は、19世紀から20世紀の転換期に生きた水彩画家だ。彼の生きた時代は、水彩画が流行った時代だ。以前書いた三宅克己もちょっと前だが、ほぼ同時代だ。水彩がなぜこの時代の日本人にフィットしたのかは、たいへん興味深い点だ。

Img_6550 大下藤次郎の水彩画を観ながら、素人目に感じたことを言うならば、第一に「水」ということについて、当時流行していた志賀の「日本風景論」における水蒸気論との自然主義的な関係は深かったと想像できる。日本の風景が水蒸気によってぼんやりとした輪郭を持っており、このことが水彩画を発達させた。このことは、遠因ながらも、日本の独自性を喧伝することになったと言える。

Img_6555 第二に、水彩画の流行が、伝統の水墨画との関係にもあることが予想できた。つまりは、日本の風景自体が、自然に観られる「水」の特性を活かす傾向を持っていて、日本風景の独自性をこれに寄って強調できた。透明感を創り出す画法には、水彩画特有のものがあったと思われる。伝統の復古とまでは、大袈裟なものではないにしても、「水で描いた」と評されている透明感ある画法は、当時の日本人にとって魅力があったといえる。

Img_6551 第三に、以上の第一と第二の点は、展覧会に掲げられていた批評家や学芸員の方々の受け売りの域を免れないところだが、これら以外にあげるとすれば、「水平に広がる」開放的な風景の描写が素晴らしいのだ。モダンを志向する当時の日本の時代にマッチしたといえるのではないだろうか。大下の絵には、近景・中景・遠景が下段から中段、上段へ配置されている絵が多い。中心は中景にあって、風景の中核や人物が書き込まれているのも、この中景である。けれども、注目したいのは、この中景を浮き上がらすために、効果的な近景と遠景が配置されているのだ。

Img_6553 この例として、わたしが好きな絵は、1898年に海外で描かれた「シドニー南端」をはじめとする海と波を描いた連作だ。近景の緊張感が、全体の開放感とマッチして、複雑な絵画を構成している。自然主義からすこし超え出た趣があると思う。

Img_6554 帰りに研究室へ寄ろうと大学へ向かう。いつもの中華料理「ホイトウ」で昼食を食べようとしていたら、KビジネスのSさんが現れた。手には、裏庭で取れたという「すもも」をいっぱい持っていて、あとでくださるという。そういえば、写真の3枚目にあるように、千葉市内の大学新入生は、千葉学習センターの学生にも適用されるようなのだが、9月まで千葉市立美術館への入館料が無料なのだそうだ。残念ながら、教職員は駄目で、新入学生のみなのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。