« ガバナンス研究会を聴きにいく | トップページ | 鎌倉駅の西側のほうを歩く »

2014/04/13

映画「白ゆき姫殺人事件」

3 グリム童話集の「白雪姫」をわたしの放送授業で使ったので、このところ白雪姫関連の映画を見ている。先日この欄で取り上げた映画「ビアンカニエベス」も白雪姫の新しい解釈だったと思う。映画評では酷評も目立つが、異なる解釈を成立させてなおかつ古典的な白雪姫に共通の物語を、強化する映画になっている点では、評価すべきだと思う。

今回の日本映画「白ゆき姫殺人事件」はミステリーに分類されるものだと思われる。ミステリーの本道は何かといえば、諸々の説があるのだと思われるが、謎の存在が欠かせないという共通点を持っている。この「謎」を最初の段階でいかに造り出すことが出来るかが、ミステリーの最初の段階での成功を左右するだろう。「これが謎だ」と主張する人物、事象を造り出せるか否かだと思う。

この点で、今回の中村監督の「白ゆき姫殺人事件」はどの程度物語と異なり、どの程度白雪姫物語なのか、が問われるだろう。今回の映画では、とりあえずグリム童話と異なる点を強調するところから入っている。

この映画の出だしでは、「白ゆき姫」と考えられる人物を登場させているのだが、この白ゆき姫が殺害されるところから、物語を始めている。ロメオとジュリエットのように、最初に主人公が死ぬ場面から始める手法は、インパクトがあって映画向きだと思われる。

もしこの殺害が物語上「本当の」出来事ならば、白ゆき姫伝説に逆らうことになってしまう。物語では毒リンゴを盛られた白雪姫は生き返るのだから。映画が終わった後で考えれば、この設定のトリックが「白雪姫と継母を逆転させたものだ」というように、論理的にはわかるのだが、最初に「白ゆき姫が殺害される」という謎は、いかにも謎過ぎて、ちょっとわたしの柔な頭ではついていくことができなかったのが残念だった。

つまり、「白ゆき姫は、白雪姫ではなく、○○だった」という謎をまず造り出しているのだ。このように、ミステリー特有のトリックがこの映画には随所に仕組まれていて、途中途中で頭を転換させれば、たいへん面白い映画だったことがわかるのだ。じつはこの映画の主人公の一人である、テレビレポーターがいて、この頭の中が空っぽで浅薄で嘘に乗りやすい、という設定なのだが、それは映画を見ている観客がその通りであって、この映画に騙されっぱなしとなるように、この映画は仕組まれている。映画が終わると、このレポーターの絶望がそのまま観客に乗り移る。そして、この映画の設定がおかしい、無理がある、などと口にして、映画館を去ることになるのだ。

さて、このように「騙し」や「謎」の面白いところは満載なのだが、この映画に対する一番の不満は、なにか。白ゆき姫伝説のほんの一部しか使っていないという点である。もちろん、「王国」は登場しないし、「王子様」もいないし、「毒リンゴ」も現れない。そして、最も肝心な「7人の小人」が登場しないのだ。たとえ現代の映画とはいえ、「白ゆき姫殺人事件」と題名をつけるならば、白雪姫伝説をもっと尊重すべきだと思う。こんな白雪姫物語は存在しない。単に女性間の嫉妬劇を演じさせるのであれば、それに白雪姫伝説を使う必要はなかったはずだ。

« ガバナンス研究会を聴きにいく | トップページ | 鎌倉駅の西側のほうを歩く »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/59511909

この記事へのトラックバック一覧です: 映画「白ゆき姫殺人事件」:

« ガバナンス研究会を聴きにいく | トップページ | 鎌倉駅の西側のほうを歩く »

『貨幣・勤労・代理人』(経済文明論)

  • “「貨幣・勤労・代理人」"

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。