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2014/03/15

小説「不如帰」の冒頭に出てくる宿の喫茶店で、珈琲を飲む

0314_10 昨日、先生方の乗ったマイクロバスと、伊香保温泉で別れて、単独行動を取ったのだった。伊香保温泉には、戦前には御用邸があり、群馬県の温泉地がかなり存在する中でも、とりわけ有名で、人びとが集まっていたことが知られている。なぜこのように、伊香保温泉にみんなが吸い寄せられたのか、社会現象としてたいへん興味深い点である。

0314365 たぶん、「黄金の湯」と称する伊香保の源泉そのものも十分な理由であるとは思われるが、それ以外にも数々の神話が存在するので、それを尋ねて歩きたかったのだ。ちょうど娘が仕事を終わらせて、つき合ってくれるということになり、昨日の昼に伊香保温泉で落ち合うことにしていた。

待ち合わせたところが、じつは伊香保温泉を日本中に広めることになった、その原因の1つとして名高い、徳富蘆花の小説「不如帰」の冒頭に出てくる旅館であった。最初は、そうとは知らずに、伊香保温泉の中心にある石段に沿って、登っていったのだが、途中右手に趣のある庭が見え、さらにちょっと覗くと、落ち着いた雰囲気の喫茶店Rが目に入った。窓からの景色が素晴らしく、赤城山の続いている山並みが関東平野にせり出しているのだ。

0314365_8 「千明」の宿ということで「不如帰」には出てくるが、これがこの宿「千明仁泉亭」の3階の部屋だったらしい。しばし、娘の到着を待ちながら、喫茶店Rで苦みの効いたコーヒーを楽しんだ。この全体の風景は、現代も明治期も変わらなかったにちがいない。小説の中で、この旅館での主人公「浪子」と、夫の「武夫」のふたりの会話場面から、この小説がスタートし、さらにさっきわたしたちがマイクロバスで寄って来た「水上観音」0314_13 へのピクニック場面が続いて描かれているのだ。小説は、夫婦愛というのか、浪子の純粋な愛が、明治期の家制度で潰されていく「家庭小説」という悲劇の文脈で進んでいくのだ。この小説がベストセラーになったことも手伝って、伊香保温泉が明治期の人気の場所になったらしい。

0314365_3 最近の流行で、どのような喫茶店でもその土地の特産物が置いてあり、ここの喫茶店でも、小さな壜に入ったジャムが売られていたので、母へのプレゼントで1つ購入した。娘は、雑貨趣味を反映した土産品を両手いっぱいに抱えて現れた。赤城山をかけ下ってくる寒気がそろそろ厳しくなって来て、マフラーを顔に巻くとちょうどよいくらいという気温になって来た。

0314365_5 もうひとつ訪れたのは、竹久夢二の美術館である。午前中にK先生から、この伊香保温泉の最大地主であるK一族のことを聞いていた。この夢二の美術館もそのK一族が経営していて、普通の美術館よりもすこし高い入館料が設定されていた。それでも、期待した以上に、デッサン帳の収集が充実していて、400冊以上を保蔵している。それで、これらを見ているだけでも、相当な時間のかかる見学となった。それから、草花を描いた夢二の水彩画が素敵だった。

0314365_6 それで、なぜ夢二が伊香保と関係していたのか、という点が重要であると思われる。もちろん、伊香保関係者からの注文に応じて作品を書いたということも重要であるのだが、それならば、日本中に夢二美術館は建ってしまう。現に、日本の至る所に夢二美術館があって、その関係性をいろいろな形で正当化しているのを見ることができる。ここでも、伊香保在住の少女からの手紙が残っていて、さらにそれへの丁寧な夢二の返信が残されており、これらの神話を強調しているのだ。いずれにしても、夢二を通じて、伊香保の人気神話が増幅されたということは確かなことである。

0314365_7 外に出ると、先ほどよりも気温がさらに5度くらい下がっており、すでに外を歩いている人はいない。地元の酒屋に飛び込んで、地酒の「T」と「M」というフルーティ系とすっきり系の吟醸酒を購入して、早足で宿に戻ったのだった。そして、伊香保の「黄金の湯」にたっぷりと浸かって、冷えきった手足を温めたのだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。