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2013/11/04

松本のクラフト(工芸)について聴く

1104 午後から、松本クラフト推進協会のIさんにインタヴューを行う。今朝早くに、中央線あずさ号に乗って、昼にはすでに駅前でランチを食べていた。電話が入ったので、 早々に「あがたの森」公園のまえにある推進協会の建物「クラフト・ステーション」へ駆けつける。玄関を入ると、小さな展示の出来るギャラリーになっていて、白い色調の部屋が用意されていた。今日は、ちょうど隣りの部屋で、来年度の企画会議が開かれていた。

1104_4 今回は、ラジオ授業番組のインタヴューなので、言葉が重要になることは当たり前なのだが、じつはIさんの言葉のイントネーションが、この松本・安曇野地方特有のものが出ていて、それはまたわたしの生まれ育ったところだという懐かしさもあり、対話しているとすごく気になるところがあるのだった。いつものインタヴューとは、ちょっと違った雰囲気を感じていた。録音技師のTさんと一緒に行ったのだが、Tさんは埼玉出身ということだから、いくら耳の良い彼でも、この微妙なイントネーションまでは、気がつかなかったに違いない(と思う)。

1104_5 インタヴューの内容では、松本で毎年開かれている「クラフトフェア」や「クラフトピクニック」や「工芸の五月」などの運動・イベントの説明をしていただいたのだが、なぜ松本でこれほど「クラフト」への注目が盛んになったのかが十二分に語り尽くされており、興味深いお話となった。来年4月から始まるラジオ授業番組のなかで、ぜひ聴いていただきたいと思う。もっとも、ラジオ番組には時間の制限があるので、お話のうち、半分も載せられないのが残念だ。

1104_6 この話の中で、「工芸作家」の側という視点が興味深かった。クラフトフェアには、大勢の観客というのか、参加者が集まるのだが、じつはなぜこれほど、参加者が集まるのかといえば、単なる買い物ではないもの、つまり特定の作家の作品が手に入るし、また手に入れなくとも、話を聴いて、その知識を得ることが出来るからで、このことはたいへん大きいのではないかと思われる。迂回する買い物ができるのだ。そして、その迂回の途中で、思いがけないことが、それぞれに起こるのだ。

「マーケット」と、この「クラフトフェア」あるいは秋に開かれる「クラフトピクニック」との本質的な違いがあるのだ。物を買って、取引が済めばそれで終わり、というのがマーケットであるとすれば、それに加えて、作家と参加者との間に何かが起こるのが、フェアあるいはピクニックなのだと思われる。この何かのことをインタヴュー相手のIさんは「日頃、気の付かないもの」と表現していた。この「気の付かないもの」というのが生活の中では、ほんとうのところ重要なのだと思う。買い物には、本来買い物以前の制作者のプロセスが存在するのだが、それは消費者には見えない。けれども、手作りやクラフトの良いところは、目の前でその造るところが見える点である。

じつは、わたしは、フェアやピクニックが消費者などの参加者向けに行われたものだと、ずっと思いこんでいた。ところが、今回謎が解けたのだが、もちろん参加者向けであるところは否定できないとしても、実際に推進協会の会員が気にしていたのは、作家の側であったということだ。作家がどのような技法を持っているのか、どのような素材を使っているのか、交流を通じて、互いに分ち合いたいというところに、最初の目論みがあったのだということである。考えてみれば、この運動を立ち上げた方々は、工芸作家に関係していた人びとが多かったのだから、当然なのだが。それも、自然に組織だって行ったというところが素晴らしいところだ。

その兆候は感じていた。ピクニックを見に行くとわかるのだが、「ワークショップ」形式を取っているのだ。この形式が主流になっていく過程は、まさに単なる販売と消費ではなく、そこにものづくりとしての制作を介在させたいということだ。先日訪れた「ピクニック」でも、いくつかのテントを回ると、本人が席に居ないという工房が幾つかあって、それは他の人のテントをその作家が訪れていたからだ。一覧表的な意味のフェアとピクニックは持っていて、情報のやり取りがあちこちで見られるという特徴を見ることができたのだった。

「マーケットと行政なしに出来ることが存在する」と言えるためには、これだけの工夫がなければ、これほど続くことはなかったであろう。ワークショップ形式がやはり秀逸であったということに違いない。作家と参加者の間に何かが介在しなければ、なかなか活動が活気づくことはなかったに違いない。現代では、作家と参加者との間に、何かが存在することを見過ごしているのだ。この間に割って入って、「気の付かないもの」を気づかせてくれるのが、クラフトや手作りの良いところだと思う。

1104_7 インタヴューが終わってから、いつものように写真をとって、記念にしたいというと、心良く応じてもらえた。Iさんの隣りに写っているのは、Tさんでフェアの第一回から手伝っていて、何と横浜から週4回通って来ているとのことだった。この写真はそとに出すことはしませんからというと、出しても良いですよと、とおっしゃってくださった。「クラフト・ステーション」という、この事務所はやはり木工の方々が手伝って、改造してくださったということで、白い壁のスタジオ形式の部屋に仕上がっていて素敵だった。

1104_8 帰りに、今日のインタヴューを振り返りたいと思ったので、女鳥羽川のM喫茶店へ寄って、本日限定のモンブランのケーキセットを食べる。バッハが流れていて、一日を振り返るのに最適な音楽だった。外に出ると、すでに寒さを感ずる風が吹いて来て、ここが松本であって、その昔耳のしもやけに悩んだことを思い出したのだった。1104_9 この時期から、すでに秋ではなく、冬を感じてしまうのが、信州の季節感なのだと思い出したところだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。