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2013/07/05

映画「コンティキ」を観る

映画「コンティキ」を観る。ある世代にとっては、この名前を聞いただけで、血躍る想いを持ち、本を寝床のなかで読んできたものだ。とりわけ、フィールドを志向する人びとには、たまらない魅力を持っている。

小学校の時に読んだか、遅くとも中学校で読んだか、かなり早い時期に読んでいて、それでなぜ文化人類学へ進まなかったのか、不思議なくらいだ。けれども、大学院時代の長期研究員アルバイトで、トンガへ滞在したのも、考えてみれば、「コンティキ」を読んだからに違いない。

著者のトール・ヘイエルダールは、冒険家の系列に属する人だと思う。考え方と、冒険とを統一的に組織化出来る能力を備えているのだ。この「企て」の資質というものは、現代においては必須の能力だと思われる。なにも意味のないところから、意味を作りだすことが、現代には必要なことなのだと思った。

逆にいうならば、現代という時代は、このようにしてしか意味を作りだすことができないという構造を持ているのだと考えられる。このように考えるのであれば、たとえ学説が正しくなくとも、正しいと思われるかけらが存在するならば、このような「企て」の現代において、必要不可欠のことなのだと思われるのだ。

それで、実際にいくつかのことが気になるのだ。ひとつは、トールがフィールドワークで滞在していたポリネシアの島に、やはり分け入っていくと巨石文化があって、大きな石に巨像が刻み込まれている。この印象は、鮮烈なもので、わたしもトンガの山奥へ連れて行かれて、生い茂った薮の中に突然巨石の建築物が現れると、何だこれは、と興味を持ってしまうほど、強烈な存在だった。それぞれの島に、共通して巨石文化が現れるのを観ていると、これらに何らかの共通点があるのではないかと考えてしまう。

それから、印象に残っているのが、コンティキが太平洋の海流に乗って、ポリネシアの島に、最後に流れ着く場面である。ポリネシアの島々は、珊瑚で出来ていて、周りが環礁で覆われている。いわば、水深い黒い外海から、浅瀬の白い内海へ入るには、この環礁を超えなければならない。コンティキは、大波を利用して、これを超え、大破することになる。

じつは、わたしがトンガへ行ったときには、この構造を知らなかった。それで、環礁の内側はあまりに浅過ぎる海岸なので、環礁を超えて泳ぎに出てしまったのだ。現地の人は環礁の外へは出ないらしいと後で聞いた。サメがいるし、波が強すぎて、泳ぐどころではないのだった。結局、そのとおりで、外海の大波に打ち上げられて、背中に裂傷を負ってしまった。ということも、思い出した。何が言いたいのかといえば、冒険というものは、その場に直に向き合ってみるとなかなか難しいものだ、ということだ。

それでも、疑問に残るのは、なぜポリネシア人が島あるいは大陸を出て、新たに海の向こうへ行ってみようと考えたのか、ということである。ポリネシア人がもしトールの学説通り、ペルーから南太平洋へ移住するために、筏で乗り出したとしたら、それは家族みんなを連れて出ただろうと思われる。それほどの危機がポリネシア人を襲っていたということだろう。これに対して、トールは、コンティキの冒険を冒険家たちと行い、最終的には妻に離婚されることになる。その後、冒険を続ける人生をおくることになる。この落差は何だろうと考えてしまうのだった。

この辺で、冒険生活と日常生活は両立できないだとか、はたまた、学者生活は日常生活と矛盾するとか、ということは、たいへん興味深いこととして浮かび上がってくるのだった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。