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2013/07/17

午前中の息抜きに、鎌倉へ行き、逗子で昼食

0717_2 鎌倉で行われている「松田正平展」へ行く。「陽だまりの色と形」と副題が付けられている。この陽だまりというのは、日常性を描いた松田正平作品の比喩だ。今日の鎌倉は、30度を猶に超すと予想されたので、烈火の「陽だまり」にならない前に、朝早く涼しいうちに、観光客を避け、いつものように逗子回りで近代美術館へ入る。

0717_3 ゆったりと数十年かけて、少しずつ作品が変わっていく。最晩年の自画像が、入り口の近くに掲げられていて、これは最高傑作のひとつだと思われるけれども、その隣りから東京美術学校時代の初期作品が始まっている。そして、だいたい年代順に、80年間に渡って描き続けられた作品が並んでいる。

0717_4 このちょっとずつの変化が、日常性そのものと言えるかもしれないし、描かれた作品そのものよりも、このゆったりとした変化のプロセス自体が、日常性を表している。100点以上が展示されている大きな意味が、ここにあると思われる。

0717_5 もちろん、転機となった決定的な時期が、はっきりとわかる展覧会の構成になっていて、その変化を見つけるのは容易いが、それがわかったからと言って、ほんとうの変化が理解できるわけではないし、その意味がストレートに絵の中に書き込まれているわけではない。

0717_6 わたしの好みを言わせてもらえるならば、またここは偶然にも、2、3枚は妻の趣味と一致したのだが、1950年代後半の集中的に画風を確立した時期の、力を抜きつつも緊張感ある作品群がすばらしいと思う。これらはどういうわけか、今回は山口県の機関が所有しているものが集中的に展示されていた。きっとまとまって誰かが持っていたものを郷里の人びとが引き取ったのではないかと思われる。

0717_7 たとえば、1959年に描かれた「かみきり虫」と「乾魚」では、それ以前のごてごてと油絵を積み重ね、その中から形態を浮かび上がらせる方法も、もちろん受け継がれているものの、うまくすり抜けて、背景に透明感が出て来ている。この透明感の中から、いくつもの虫や魚の幻影が見えてくるのだが、遠目には、ひとつのシンプルな形象だけが残されているように見える。

0717_8 全体としては、子どもの絵のような単純な印象を強調し、そのじつは、力を抜いた老人のように経験を積み重ねた洒脱な描き方を行っている。かなり複雑なシンプルさを実現しているところが、日常というものの核心を突いている。虫がのたうち回っている。ただそれだけかもしれない。けれども、その一瞬をそのことだけに集中して、伝えようとしているのだ。

0717_9 「犬馬難鬼魅易」という言葉が彼の標語として、展覧会では掲げられていた。鬼や魑魅魍魎のような奇異なものを描くのは易しいけれども、犬や馬のようなありふれたものを描くのは、かえって難しい。だからこそ、描く価値があるということだろう。「四国犬」では、輪郭だけで描かれたようにみえる、中身がすかすかな絵なのに、猛烈に怒って吠えかかってくる犬が、ユーモアと余裕をもって迫ってくるのだ。

0717_11 そして、この辺りまでくると、すべての形が、自分の形に完全に一致しているらしい。自分と世界とが完全にぴったりしてくる感覚が存在するのではないかと思わせるところに入っている。それは、想像してみることは可能かもしれないが、他人が外から理解できないところとして日常が描かれていて、はっとさせるのだ。「周防灘」シリーズはそんな連作ではないかと思われた。妻から教えられたインターネット情報によると、瀬戸内海というのは、「Inland Sea」から来ているらしい。この雄大さを包み込んだおだやかさが、この内海と画風とに共通していると思う。

0717_12 さて、妻が数日前の新聞記事で、この県立近代美術館鎌倉館の建物がこの土地を離れることを読んでいた。耐震構造になっていないので、鶴岡八幡宮からの借地権が切れる2、3年後に移築されるそうだ。この蓮池に浮かんだ、鎌倉の一部として重要な風景であり続けた建物が無くなるということが、都市全体にとって、どのような意味を失うことになるのか、測りしれない。中世の世界のなかに、ぽっと近代の世界が存在していて、この対比がわたしのイメージの中では鎌倉というもののイメージだったのだが、それが変化することになる。でも、まだすこし猶予期間があるようなので、それまでこの空間を十分に楽しみたい。

0717_13 すこし散歩して、別館で開かれている「野中ユリ展」を見て、その足で逗子に出る。ちょうどランチの時間だったので、いつもの石窯ピザの店へ入る。すでに店は満席で、奥の部屋に通される。一枚目は、クリームとポテトがピザ地のもちもちと合ったもので、二枚目は、サーモンと生野菜をピザで包んで食べるタイプのもので、塩味が効いた美味しいものだった。

0717_14 午後には太陽が登って、街を歩くには辛い。家に戻って、仕事に取りかかるにはちょうど良い時間だ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。