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2013/04/12

妻から伝染したこと

Img_7596 妻から伝染したことは、たくさんあるが、中でも気に入っている伝染病は、海辺を眺めることだ。五島列島での海辺眺望は、いまでも瞼に浮かんでくるほどだ。島の中まで食い込んでくる海が流れていき、色彩が時間によって変わっていく。それを眺めて、ぼうっとする。海が世界との関係を媒介していると思うこともあるくらいだ。

Img_7598 とりわけ、海を観ながら仕事をする、という贅沢な趣味に浸ったのは、門司港だった。跳ね橋が窓の下にあって、運河に流れ込む海を観ていた。風の強い日はグレイかかった風景が海を覆い、晴れた空の真下の日には、海も真っ青で仕事につかれた身体を散歩に誘うのだった。

Img_7605 けれども、日常のなかで、ちょっとうちを出て、仕事の帰りに寄るところがあるとなると、そのような都市はなかなかない。海岸の海辺に文化的な集積の進んでいるのは、神戸と、この横浜くらいだろう。海辺に出てぼうっとするところが常に準備されているところが、横浜の良いところだ。山国育ちのわたしにとって、海は想像力を運んでくる流動物なのだ。地方都市に出ると、もちろんホテルなどは海辺にたっていることはあるのだが、横浜では、それほどお金を掛けずに、海辺に展開する喫茶店を確保すれば、そのことが簡単に可能なのである。

Img_7613 大学の講義もスタートから二日目を迎え、ようやく身体が動いてきた。この感触は大事だ。それで、K大からの帰り道、根岸線に乗って、桜木町に出て、海岸通を目指すことにする。駅の広場を横切って、弁天橋をわたる頃には、大岡川の上から、海方向へ向かって、みなとみらい地区のビル群が見えてくる。この辺は、大規模開発地域なので、まだまだ街に馴染んでいない。あと百年もしたら、もうちょっとこのよそよそしさが消えてくれるのかもしれない。

海岸に沿ったビルには、赤煉瓦の昔からのビルが残されている。これらが今も使われていれば、この地域ももっと違う展開を示していただろう。都市計画が往々にして陥りがちな欠陥をさらけ出している。手を入れすぎてしまって、機能が単調であるのだ。したがって、人が集まらないことになってしまっている。

Img_7610 それで、ここから、もっと昔のビルがそのまま使われている地区へ入っていくことにする。典型的なのは、日本郵船ビルだ。現役としてビジネスに使われ続けてきた重みが残っていて、近代ビル以前の良い建物だと思う。

Img_7620 その隣に、戦後すぐに建てられたビルがあり、その奥が今日の目指す喫茶店というのか、スタジオというのか、本屋というのか、何れにしても多面的で面白い場所になっていることは確かだ。この倉庫を改造した、いくつもの働きを集積した場所は、魅力にあふれている。ほんとうに採算に合っているのか、心配なくらいだ。二階、三階もあって、きょうは、ライブも計画されているとのことだった。カフェ「BA」だったが、途中からパブにかわって、パブ「BA」となった。

Img_7624 ここの大テーブルを一人で独占して、午後の仕事を始めた。コーヒーは苦み系の味だ。海辺が見えるのだが、ドアを通してなので、直接観たいと思う客は、 外のテーブルに座って、仕事をしている。ゆらゆらと小波が動いて、このリズム感が仕事に良い影響を与えてくれる。

天井が高く、場所がゆったりしているので、遠目に座っている客たちの動静も気にならない。間を埋めている商品の本たちが、音を吸収してくれているようだ。使われていない倉庫がたくさんあって、これらを再利用できるというのも、横浜の魅力だと思われる。

Img_7630 二時間ほど、海辺の仕事をせっせとこなし、肩こりがしてきたところで、コーヒーをあきらめて、ビールに転換する。この店には、横浜の幕末に流行った、赤い三角のトレードマークが鮮やかな、バス・ペール・エールがおいてある。甘みのあるエールで、日本人好みだと思う。Img_7632 このころには、演劇を見に来たような、中年の女性客や、近くの芸大の大学生たちが集まってきて、客層の多様性を見せることになる。酔いが回ってくる頃、そろそろ今日は店じまいだ。海岸通、本町通、相生町を抜けて、伊勢佐木町から電車に乗った。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。