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2013/04/20

今年のオリエンテーションで流行った言葉

Img_7721 修士課程のオリエンテーションが、幕張の図書館3階で行われた。朝早くから、日本全国のほぼ全員の「社会経営科学プログラム」の学生たちが集まってきた。このように、一堂に会すると、スタートに当たっての漲る集団の力というものを感じる。これから、修士論文を書く2年間の長い「旅」に出発することになるのだが、餞の言葉を先生方が送った。

Img_7719 毎年、先生方が自己紹介を兼ねて挨拶する言葉には、流行があって、今年は冗談としてこれまでの会でもT先生を中心に使われてきた言葉に集中した。いつも以上に、他の先生方もこの言葉に反応していたのが印象だった。大学院への「入院」「退院」という言葉だ。

K先生がユーモアを込めて、まずは笑いを取りに行った。「精神病院と大学院の違いは、どこにあるか、知っていますか?」それは、「精神病院は、狂った人を入院させて、治して退院させるが、他方、大学院は普通の人を入院させて、狂わせて退院させます」という挨拶をした。そして他の先生方も、狂わないうちに、早く修士論文を書いて「退院」してください、と続いたのだった。

わたしも悪のりして、「狂い方」に三つの段階があると応じた。狂い方というよりも、修士論文を書く「楽しみ」「苦しみ」といった方が適当かもしれないが。論文を書いていて、最初に出会うのが自分であり、これが一つ目の狂い方だと思われる。論文の言葉を探して、自分との対話をするうちに、いままでと違った自分が見えてくれば、「楽しみ」に変わるが、もしいままでの自分のままだったのであれば、自分との対話が詰まらなくなってしまい、繰り返しの「苦しみ」になるだろう。わたし自身のことをあまり言いたくないが、制作というのは孤独な作業が続く感じが途中でするが、それを乗り越えることができるかで、楽しめるか苦しむのか、狂い方が違ってくると思う。

第二の段階があって、修士では、先生との対話が「楽しみ」になるか、「苦しみ」になるかで、かなり論文の性質が変わってくると思う。一般の大学では、この辺が違っていて、最初から先生の専門に近いテーマが割り振られる場合が多い。これに対して、放送大学では、最初に学生が自分でテーマを選んでくる。したがって、M先生が適切に言っていたように、先生を面白がらせる工夫を行うことができれば、その対話から、その論文の世界がかなり広がるし深まることになるだろう。先生を論文作成プロジェクトチームの一員に加えられ、自分のテーマがいかに面白いものであるかを、先生にアピールできるか否か、で「楽しみ」方が違ってくるだろう。

結局のところ、「狂う」ことができるかどうかは、三番目の段階に到達できるかどうか、だと思う。つまり、ゼミに参加して、それまで見ず知らずの人だったゼミの参加者に対して、自分の表現が受け入れられるかどうか、さらにいえば、このプログラムの特色としては、「社会」ということを意識した論文を書けるかどうか、にかかっているので、ゼミの人、すなわち世間一般の人に読んでもらえる論文を書くほどに、他者を楽しませることができるか、それとも、他者を苦しませてしまうのか、ということが問われるのだと思われる。この三つ目の段階が、毎年みんなの論文を読んでいて、もっとも解らない部分なのである。どんな論文が最終的に他者を楽しませるのか、毎年違っていて、ちょっとスリリングな体験なのだ。これは、論文が成立してみないことに解らない。言葉で説明できない部分なのである。ゼミの人にアピールできることが、本を読んでできるかもしれないし、フィールドでの調査からできる人もいるし、よく解らないのだ。

ゼミでの討論や議論は、表面的にはわからないが、その意味では、かなりの効果をあげているのかもしれない。他の人の議論は、直接的には、自分の論文に関係ないことが取り上げられている。だから、人によっては、論文を書く上で、時間の浪費をしてしまっているように思う人がいるかもしれない。けれども、これは不思議な現象だが、他の人の論文の議論に参加した人ほど、より良い論文を書く、つまりは、より深く「狂う」のだ。だから最終的な結論を付けるとするならば、大学院では、正常な人を「狂わ」せて退院させるというのは、実際のところほんとうのことなのだ。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。