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2013/01/08

もうひとつの世界があり得たかもしれない

0108中世から近代へ至る過程で、人間世界の「実権」を握るのは何か、という競争が行われたのではないだろうか。このように想定してみると面白いことが起こりそうだ。それは、絶対王制から譲り受けた「権力」であっても良いかもしれない。あるいは、近代を主導した「貨幣」であっても良かったかもしれない。それとも、第三の道筋があったのかもしれない。

たとえば、エリザベス1世の時代には、ヘンリー8世以来の、貴族のピラミッドを積み重ねた「権力」の時代が現出したと見て良いというのが、大方の見方であろう。それで、これに対して、反証を上げることがまったくできないというわけではないと、果たして言えるだろうか。

映画「もうひとりのシェイクスピア(原題:Anonymous)」を観る。原題からわかるように、シェイクスピアの戯曲に関しては、原著書が残っていないために、署名された戯曲が存在しないのだという。つまりは、匿名で書かれなければならなかった戯曲というのがあり得て、もうひとりのシェイクスピアを想像してみることができるかもしれない、という物語である。たとえ権力の時代にあっても、言葉による支配が可能かどうか、という問題があると想像することができる内容だ。言葉がどれほどの力を持ったのであろうか、という仮説はたいへん楽しいし、興味あるフィクションが可能であろう。言葉の力と、権力とを歴史上の「実力」として比べること自体、ナンセンスだと言ってしまうのは簡単だ。けれども、対象は何しろシェイクスピアなのだから、想像力を最大限飛翔させてしまうことが可能なのではないだろうか。

0108_5たとえば、シェイクスピアの戯曲がこの時代の民衆に熱狂的に受け入れられたことから、類推すれば、これを現代風に権力の道具として利用しようとする人びとがいると考えることは不思議ではないだろう。映画を観ればわかるように、このような含意が結末辺りに、潜在的に存在していたということは言えるのではないか。

0108_2たとえ、もうひとりのシェイクスピア説を認めない人であっても、言葉には潜在的に相当な力が存在することは、認めざるを得ないだろう。この映画には、このような、本来は荒唐無稽なことだと言われることであっても、納得させてしまうだけの映画的緻密さが存在する。用意周到で、微に入り細に入り、十分な映像で描いている。この緻密さには、相当な感情が入っていて、作者が当然ながら、かなりのシェイクスピア・ファンであることを見せてくれる。今年の初めから、このような作品に遇って、幸先がよい。

0108_3商業誌のコピーをとるために、映画館街を抜けて、宝塚劇場を右に回り、帝国ホテルの横断歩道を渡って、日比谷公園へ入り、そのまま日比谷図書館を訪れる。この図書館は何回も訪れているのだが、雑誌ははじめて利用するので、係員に場所を尋ねると、カウンターからさっと出てきて、書架まで案内してくださった。ふつうの図書館だと、閉架式になっていたり、コピーに不便だったりするのだが、ここは直ちに用事が済むところがたいへん良いし、さらに係の方がたいへん親切だ。これも、わたしの高齢化効果の一環だとは思いたくないが、応対のリズムからすれば、明らかに気遣ってくださっているのだ。こちらも、有り難く享受する心性になりつつあることを素直に認めたのだった。

0108_4幕張へ向かうために、東京駅を目指す。日比谷の皇居堀を歩くのは、たいへん気持ちよい。水が有り、並木があって、自動車の洪水を尻目に、すたすた歩く効用があるのだ。前を行く中年の、仲の良さそうな二人組は何を話しているのだろうか。仕事の相談かな、それとも仕事のあとの相談かな。それとも、もうひとつの世界の話かもしれない。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。