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2012/11/26

1枚の写真に集積されていること

20121126_2昨日、大学院入試が行われ、先生方が総動員されて一日中面接を行った。これで困るのは、ここ数週間ずっと、原稿に向かい合ってきていたことである。なぜ困るのかといえば、目の焦点距離が違うのだ。だいたい数十センチの範囲で、生活をしてきたのだが、急に数メートルの距離の世界が一日中展開するのだ。それで、すっかり目の焦点を合わす筋肉が緊張のために、疲労してしまうのだ。柔な筋肉を持っている。

20121126_3だいたい数十人と会って、話をしなければならないのだが、この人数規模もほぼ限界状態なのである。かなり内容に踏み込んで専門的な話を聞かねばならない。しゃべるよりは、聴くほうが楽だろう、という人もいるが、終わってみるとどうもそういうわけでもないのだ。

今朝起きてみると、原稿に向かっていた時と異なる目のクマができていて、仕事をしたなあ、という感じだ。原稿に向かう仕事と、どちらの方が良いかと聞かれるかもしれないが、それは程度の問題で、やはり人数の問題だろう。多くの方と会うのは、楽しいが、多すぎると苦痛に変わる。

20121126_4空は明るいにもかかわらず、雨が今すぐにも落ちてきそうな空模様だ。午後から、茗荷谷で打ち合わせがあるので、早めに出て、東京駅へ出る。「行幸ギャラリー」へ向かう。丸ビルと新丸ビルの間にあって、皇居に通ずる地下道がそのまま広いギャラリーとなっている。この地点の地価からみれば、これだけの広さを誇るのであれば、日本でもっとも贅沢なギャラリーだと言える。

20121126_5今、「AP」通信のカメラマン特集の写真展を行っている。十数年前に、放送大学の番組を作るので、現在のロイター通信社を取材して、内部を撮らせていただいた。その時、そのビルの隣が、AP通信社であることを知って、ビルを見に行った記憶がある。1846年設立の報道写真の老舗というイメージだ。

どの写真とは到底特定できないくらい多くの報道写真を、これまで何度も見てきた。百メートル以上あるこのギャラリーを往復して、2012年に世界中で撮られた代表的な写真を見てきた。印象に残った写真は、この二枚だ。著作権の問題があるので、特定の写真を載せることは控えたいが、ざっとギャラリーの風景として撮ったものを、記憶に止めるために、遠目に掲げて置きたい。

やはり、今年のイベントは、ロンドンオリンピックなのだが、そこでテレビでは見落としてしまう、また、一瞬の出来事なので、普通の状態では金輪際見ることができない場面の写真があった。一枚は、乗馬の馬脚に浮かんだ、静脈を写したもので、この浮き上がり方が綺麗だった。茶色の毛皮は、かなり厚いはずで、ここに内容物が反映されることなど、想像すらしたことがなかった。たとえば、鞄の革を通して、内部が浮き彫りになることなどあるだろうか。ところが、馬革は、紛れもなく、馬の皮膚なのである。この当たり前のことに、びっくりしたのだった。このような写真でしか、見ることができない、静脈なのだ。

20121126_6さらに、驚くべき一瞬が記録されていた。「チームリアクション」と題された2012年7月31日のロンドンで、マット・ダナムが撮った写真だ。写真家が観客と逆の方向を見ていたときに、それが起こったのだ。つまり、ロシアのアファナセワ選手が床運動に失敗して、転倒したのだ。だが、転倒したことが、じつは転倒したことだけにとどまらないことを、この写真は伝えてしまったのだ。同僚の選手、トレーナー、コーチたちの反応がみんな異なるのだ。選手は、当然自分が転倒してしまった時のことを思い浮かべながら、叫んでいるのだろう。

20121126_7それじゃ、無表情のトレーナーの様子は何を表しているのだろうか。おそらく、同情を通り越して、すでにそのあとのことを考えなければならないので、冷静な顔つきになったものと思われる。

反対側をみれば、多分選手が転倒していて、それを観客が見ている、という写真になったのだろう。その一瞬の出来事が記録できたということになるだろう。それに対して、こちら側の写真には、もっと多くの情報が含まれていることがわかるのだ。選手それじたいを移すより、このチームを撮ったほうが、もっと選手の転倒がどのような全体像を持っているのかを、如実に語ることができるのだ、ということを知った。

20121126_9ところが、さらに驚かされるのは、AP通信社の体勢の問題が絡んでいることだった。つまり、写真班は3人いて、他の2人が選手や観客を撮っていたのだ。だからこそ、1人の写真家マット・ダナムがこの反対側の写真を撮るに至ったことを知る。1枚の写真が、多くの撮られるべき写真の集積として存在していることを、これほど如実に語った写真はないだろう。あるいは、すべての写真は、この写真のように観なければいけないことを物語っている。

20121126_8ランチは、茗荷谷へ出て食べることにする。地下鉄の裏口から出て、本通りに入ると、「B」という魚屋さんの隣にある、魚の定食屋さんがある。今日が、はじめてなのだが、すでにメニューに見入っている。シラスの釜揚げがあったので、これを頼む。他にも食べたいランチがあったので、また今度来ることにしよう。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。