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2012/09/29

他者を演じている内に、知らなかった自分を発見できるならば、それも面白いことなのかもしれない

0928_7小学校時代に、本とみればどんな本でも手当たり次第に読んだ。そのような癖が付いた頃があった。それで親戚の叔父さんが読んでいた本で、獅子文六の「大番」があった。ラブレターを謄写版印刷するエピソードが秀逸で、この話は同世代のみんなにヒットしたらしく、その後高校時代の国語の時間にも話題になった。また、実社会のなかでも、ラブレターを書く年頃になったときに、これをコピーして配ったら、何人のひとから返事が来るだろうと不謹慎なことを考えつつ、返事のまったく来ないラブレターを書いた覚えがある。

0928_8映画「鍵泥棒のメソッド」を観た。失恋して自殺寸前の売れない貧乏役者と、風呂屋で転んで記憶喪失となった殺し屋がいて、人生が入れ替わる喜劇の物語だ。この二人の男に、婚活中の女性編集長が関係してくることで、映画が動き出す。はじめの場面は、女優の広末涼子が演じた女性編集長が相手もいないのに、結婚日を皆の前で宣言するところだ。相手もいないのに、結婚を宣言するところが、何となく、「大番」風ではないかと思った次第である。それにしても、偉そうに言って申し訳ないが、女優広末涼子は、いつものコケティッシュな笑い顔を抑制したことで、ぐっと芸域が広がったな、と感じた次第である。他者を演じている内に、人格が変わることがあるらしい。

0928_9この映画を作った内田けんじ監督は、「逆転」の監督として有名で、ふつうのものを何でも逆転させてしまうことに定評がある。前作の「アフタースクール」の逆転振りも見事だった。

0928_10じつは、結婚は相手があって行なうものだ、という常識を覆しているところで、まず笑いをとっているのだ。ところが、ドラマが進むにしたがって、じつは結婚は恋愛でもなく、相手でもなく、結婚するという運命的なことから、決定されている、という真理を見事に描いているのではないかと思っている。

0928_11人間が自分の家族の外へ出ることで、新たな家族を創ることができる、という構造主義の命題を逆転させているところでも、内田監督の意図は明らかだ。まずは、今の自分ということを止めることが、新たな自分を見つけることであり、それでさらに、新たな家族を創ると言ったとたんに、自分の家族が崩壊することになるのだ。

0928_12「メソッド」というのは、自分を捨てて、演ずる人格へ没入する特別な方法を、この映画では指しているらしい。演技する役の状況をすべて把握し、その中に入っていくことが、自分を抜け出すことになるのだ。

桜木町の映画館は、観た後の夜景が好きだ。そのあと、いつもの珈琲を飲んで帰ろうとおう。来週は、横濱ジャズプロムナードがある。今年も仕事を早めに終わらせて繰り出すことを楽しみにしている。いつもの店で、チケットを購入して、帰った。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。