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2012/09/24

高田馬場の映画館へ行く

0924ふつうのことを描くことが一番難しい、とよく言われることだが、ふつうのことは皆それぞれ異なるから、何がふつうのことかがわからないので難しいのだ。それで、何も事件が起こらないことがふつうのこともあるし、何か事件が起こってしまうこともふつうのことのように思える。ダルデンヌ兄弟の「イゴールの約束」と「少年と自転車」を観るために、久しぶりに高田馬場へ出る。駅からこの映画館のある間は、学生やサラリーマンが行き交い、朝からにぎわいを見せている。

0924_2少し早く着いたので、近くの店で昼食を購入する。すでに行列が切符売り場に形成されている。ここ数年間で二本立てに入った覚えがない。たぶん、入ったとしても、このW映画館だったのではないかと思われる。映画を観るには、じつは相当な体力がいる。

偶然ではあるが、学生時代にこの高田馬場に当時あった駅前の東映で、網走番外地シリーズを徹夜で、数本一度に観たことがある。この時は、朝になって、ほんとうに太陽が黄色になったのを覚えている。Bビルの間から、サッと陽がさしてきて眩しかった。これはシリーズだったから、筋は異なるが、人格は一定しているので、一晩中見ていても全体の映画に繋がりがあるように思えた。

今日の映画二本も同じ監督で、ほぼ同じモチーフの映画だった。描き方や登場人物は異なるし、話の筋も異なるのだが、繋がりのある映画だった。つまり、家族、特に父親と息子の関係がどちらの映画でも描かれていて、少年が家族との関係が切れたときに、他の関係をどのように作って行くことができるのか、という普遍的な人間関係を描いている。家族は、外との関係で決まってくるのだ。

どのような世界でも、いずれ少年というものは、実際にか精神的にかの違いはあるが、一度は家を出なければならないのだが、その時に外の世界との関係をいかに結んで行くことができるのか、を描いている。そして、その時に人生で決定的と思えるような事件が起こってしまうのだ。

この映画の描き方で感心したのは、そこで常に、何と言ったら良いのかわからないのだが、「終わりにしてしまわない精神」とでもいうようなものを持っていることを丹念に描いている点だ。それが、ダルデンヌ兄弟のふつうのことだと思われる。だから、最後がどうなるのか、よくわからなく作ってあって、観ている自分の日常のふつうのことに還っていくように出来ている。さて、自分にとって、ふつうのこととは何だろうか。

0924_3この点がベルギー的なのかもしれないのだが、家族との関係がダメでも、それ以外の社会の中の、何か信頼できるものがあることを、直感的に察知していることを、この映画は明らかにしている。映画「イゴールの約束」では、それは「約束」であり、映画「少年と自転車」では「里親」である、ということなのかもしれない。0924_4日本では、おそらく家族との信頼性がもっとも強いということになるだろうが、そうではない世界のあることを十分に描いていると思う。

帰りに、母親が東京の病院で定期検査を行っていて、妹から引き継いで、家へ送る。途中の駅から、ずっと遠望にスカイツリーが見える。夜になって、通ったときには、同じスカイツリーでも人間に寄り添っている分だけ、空間を超越しているように見えた。カップルに折られて食べられてしまいそうな、甘く頼りない「キャンディ」の棒のように見えた。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。