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2012/08/29

歩く人、料理する人、走る人の恋愛で、危険なこととは何か

Takeただただ「歩く人」がいて、その足をカメラが追って行く。それは、素足の綺麗な女性で、結婚している相手の夫は、チキン料理のレシピ本を出すために、ただただひたすら「料理する人」だ。このカップルに、リキシャ(人力車)で稼いでいる、ただただ「走る人」が三角関係として現れる。ここでドラマが進行し出すことになる。

歩く足の描写から始まる映画「テイク・ディス・ワルツ」で、気になる映画描法が使われている。恋愛の三角関係を描いている映画だ。最初は、歩く人と料理する人との恋愛から始まる。ところが、互いの関係へ入り込むと、それぞれの関係が危険水域へ入ってくることになる。

例えば、歩く人が走り出すと、それは危険な匂いが漂ってくる。それで、それぞれが歩いたり、料理したり、走ったりしない範囲での付き合いであれば、まだその関係は曖昧なままだ。例えば、二人で泳いだり、コーヒーを飲んだり、お酒を飲んだりすることは、まだ危険水域には入っていないことを示し、許せる範囲の付き合いだ。

この比喩の使い方は、直接的な関係を描くよりも、リアリティがあって、新鮮な描法だと思った。映画監督の並々ならぬ、感性を感じさせるところだ。

思い出してしまったのは、ちょっと汚い話で恐縮なのだが、オシッコを漏らすシーンだ。映画で、プールの中でエアロビクスを女性たちが行っていて、(そう言えば、なぜエアロビクスは女性ばかりが行うのだろうか)、主人公がやってしまうのだが、プールの水がそれに感知して、ブルーの色に変わるのだ。プールの水にこんな仕掛けをしているところをみると、一般的にプールの中でモヨオすのは、常にあるということなのだ。

先日のロンドン・オリンピックでも、ある水泳選手がそのことを告白していて注意を受けたが、それに対して、金メダルをたくさん取った有名な選手が、そんなことは当たり前にやっているだろう、と発言していて、なるほどと思った。そういえば、その昔小学校では、プールの塩素を効きすぎるくらいに効かせていたが、この消毒の意味はここにあったのかと思う。わたし自身がそうしたのかは、すでに時効とはいえ、想像にお任せしたい。

ロマンチックでないからか、非日常だからというのか、いずれにしても、泳ぐ人たちは不倫関係を表してはいないのだ。もちろん、モオヨす関係もまだまだ危険ではないのだ。けれども、歩く人が料理をし、歩く人が走るという関係が現れると、それは相当危険な関係に陥っていることになる。

Take2この映画「テイク・ディス・ワルツ」は、詩人ロルカの詩に題材を得たL.C.の歌「Take This Waltz」から題名を取ったらしいのだが、その関連は最後にこの曲で、二人がワルツを踊るシーンに関係してくる。この辺が、思わせぶりが多い割には、意味のないところが多いと感じさせてしまうところだ。もうちょっと、細やかな心の動きをみせてもらいたかった気がしないでもない。と思っていたのだが、夜になって、よく寝た後、この映画のことを思い出していたら、この詩の内容というよりは、この題名に関係するのではないかと思い始めた。

これは一種の逆説のようなものではないかと、わたしは思い始めた。じつはこの映画についての批評が出ていて、「後味の悪い映画だ」と皆が言っているらしい。けれども、もしこの映画の監督が「後味の悪い映画を作りたかったのだ」と考えていたならば、どうだろうか。それならばそれで、たいへん今回の映画が成功しているということになるのではないか。そしてじつは、わたしはその通りだ、と思っている。

何が言いたいのかといえば、「ワルツを踊る」ということは、踊る度毎に、パートナーを替えるということなのだ。もし恋愛でも、いつもパートナーを替えていたならば、それはそうとうに、後味の悪い恋愛になるのではないだろうか。それと同じである。

ちょっと視点を変えるならば、今日の世の中には、パートタイムの仕事が多くなってきている。それは時代の要請なのだが、実は物事はそう簡単には推移していないのだ。仕事だけがパートタイムになっているばかりか、実は生活のあらゆる活動がパートタイムになっていて、パートナーをいつも変えなければならない状況におかれているのだ。この映画は、これらの状況すべてを引き受けた比喩の映画だといえるかもしれない、と思っている。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。