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2012/07/17

宍道湖の北を通る電車に乗って、出雲大社へ

17島根合宿が終わって、一日が経過するが、島根を去り難く、もう一泊する。映画「レールウェイズ」で中井貴一演ずる主人公が、小さな鉄道会社に再就職して、第二の人生を歩み始める。この時出てくる電車が、これから乗る一畑電車だ。駅舎に明治期の写真が飾ってあった。わたしの泊まった宿舎がちょうど、宍道湖の温泉駅のすぐ近くにある。

17_2この電車は、一時間に一本なので、駅でみんなのんびりと待っている。到着する電車は、通勤客で一杯だが、往きの電車は、観光客が多いような気がした。途中、宍道湖の湖面の色がいろいろに変化するのに見とれる。水が澄んでいるので水深がもっと深いようにも思えるが、わずか4から6メートルだそうだ。昨日伺った「たたら」の鉄穴流しで、斐伊川が宍道湖に流れ込む際に、大量の土砂も運んだに違いない。

17_3電車の中は空いていたので、あちこち移動して、写真を撮っていた。駅ごとに異なる神話の絵が描かれているのだ。17_14たとえば、これは明らかに、天照大御神の天の岩戸の場面だ。172


それから、水路がいたるところにあって、宍道湖へ流れこんでいる。そこで、度重なる水害に耐えたという「遙堪」が地名となっている、と電車の車掌さんが教えてくださった。

17_4すると、「先生!」と呼び止められた。昨日まで一緒だった大阪からの学生Mさんだった。同じく、出雲大社へ出掛けてきたのだという。旅は道連れということだ。

17_5出雲大社の目的は、何んといっても、なぜ大国主命が日本の統治モデルとして、今でもさん然と輝いているのか、という点である。この王様が互酬性を強く意識した王様であることは、あらゆる神話が示していて、日本国の国是の中心をなしてきたことは、系統的に明らかである。直接の関係を強いるのではなく、間接の関係を重視する。たとえば、彼は「国引き」という不思議な術を使う。遠くにある土地を近づけてしまったという神話である。統合的で、多様なものを一つにまとめる才能を持っているということの比喩であることは疑いない。

17_6それから、わたしの小さなときから、「因幡の白うさぎ」という伝説は、大国主命神話というよりは、童話レベルの一般的な物語として、絵本などで目に耳にしている。何が日本にとって教訓になっているのかといえば、残り物に福があり、親切は他人にとって重要であると同時に、自分に帰ってくるものなのだということを教えている。これもやはり、互酬性的な考え方だと思う。関係性に膨らみがある。

17_7嘘をついて、海を渡ろうとして、サメに皮を剥がされた「うさぎ」が道端で泣いている。外来者に対して、日本の土着思想は、排除的であることを示している。兄たちは、海の潮水で洗って、乾かしなさいと、うさぎをイジメる。ところが、末の弟である大国主命は、真水で洗いなさいと言う。それで、この寛容の精神を発揮したことで、結果として、妻を手に入れる。

17_9「兄」と「弟」の逆転、弱者の救済、国を治めるものの神話が、この物語には凝縮されていると思われる。この「うさぎ」とは、いったい何者だったのか。サメの「被害者」なのか、兄たちに対する「審判者」なのか、はたまた、大国主命に対する神からの「媒介者」なのか、興味の尽きない物語だと思われる。

17_10さらに、国譲り伝説は、大国主命神話の真骨頂である。同じくらいの権力が並び立ってしまったときの、ガバナンスの在り方を教えている。基本は「謙譲」であり、譲ることによって、実は実質的には、すべてを手に入れるのである。なぜ国譲りを行ったのに、大国主命の元に、出雲大社に毎年の神無月に、すべての神が集まってくるのだろうか。つまり、譲ることによって、どのようにして実質的な信認を手に入れることになったことを教えているのだ。出雲大社では、大きなしめ縄に注目した、Mさんが教えてくれたが、このしめ縄は逆向きに巻かれているという性質を持っているらしい。

17_11もう一つ感動したのは、大社の本殿の左右に、神々が鎮座する長い社が作られていたことだ。そのシンプルな建物の装いは感動的である。神々がここの集まって何をしたのかが重要でなく、集まること自体に、神々の共同体の効用があったのだと思わせるに十分な、必要最小限の建物だった。

17_12娘から、駅の道をずっと歩くと、灯台があって、素晴らしい景色が展開していると、聞いていたが、この日差しだ。そこへ着く前に、熱中症になってしまうだろう。それで、歩くことは諦めて、帰りの電車を待つ間、駅前の喫茶店で、クリームあんみつを食べることにする。暑さのあとは、しっかり糖分を補給しておかねばならない。

17_13このあと、美術館と博物館へ寄りたかったが、あまりに一度に済ませてしまうと、今度くる時のモチベーションが下がってしまうに違いない。楽しみを残してこそ、旅の意味が出てくるというものである。ぜひ今度は、面接授業などを企画して、再来を期したい。Mさんと別れて、早々に空港へ急ぐことにする。今回の島根旅行は、いくつかの宿題を、残して終えることになった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。