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2012/07/02

死者の声を聞くと、残された記憶が蘇る

13映画「臨場」を観る。勉強不足で、テレビで放映されていたことを知らなかった。テレビの映像の影響なのか、演技オーバーなところがあって、それが映画のせいなのか、原作のせいなのかがわからなかった。それで、原作のほうではないかと何となくわかってきて、映画を観る見方を変えた。それでも、全体の中での核心は変わっておらず、記憶には、依然として印象に強く残りそうな場面だけを焼き付けてしまった。

それは、このような場面だった。小説家の術中にハマってしまうのだが、街に声が残っているのだ、というシーンを描いている。少女が、子を庇う母を刺す犯人に向かって、思わず「止めて」と叫び、やはり犯人に刺されてしまう場面がある。この時に、この背景では、多くの同じような街の声が潜在することに、この映画は注目している。死者の声が、街の至るところに存在するのだ。

この小説のアイディアは秀逸で、帰りの街へ出ると、この声が聞こえてくるような気持ちに陥った。映画の最後には、小説家の用意した、素晴らしいアイディアで、物語は完結することになる。いずれにしても、この不条理の続く世界の中でも、人は、見えないものであっても継続するものを求めている、というメッセージはよくわかる。

問題は、映画のことではなく、じつは観客のほうだった。気になったことがあった。親子連れが何組かいて、5歳くらいの女の子がすぐ後ろに、座っていた。この映画は、いわゆるR映画ではないので、子どもも入って良いのだが、けれども何度となく殺人現場が映され、実際に刺殺する場面を写したりしており、その度にその子ども客があっと叫び声を挙げたりすすり泣いていたりしていた。刺激が強すぎたのだと思う。

ここは、判断の別れるところだが、セックスシーンなどをR指定にするのではなく、むしろ暴力シーンの方を注意すべきではないか、そして、一緒に連れていくとしても、親のほうで、あんな叫び声をあげるのであれば、少し配慮すべきはないかと、保守的であるが、思った次第である。もちろん、映画の帰り道に、この映画のメッセージを巡って、親と会話を催すであろう。そして、現実に敏感な子供ほど、会話が成り立つことになるだろうことは想像できるので、あくまで限定的な道徳観なのだが。

さて、帰り道の現実の中で、このような不条理の世界に対して、すすり泣いたその女の子は、隠された感動の淵まで、無事到達できたのだろうか。暴力と感動とは、相関関係にありながら、実際には、現実の社会と同じように、暴力のほうが人々の印象の中に、強い影響が出てきてしまうのでないだろうかと危惧するのだ。

現実の世界では、映画の世界と違って、この関係が待ったなしに、現れてくるという特徴がある。だから、子どもへの配慮はできない。目の前で起こった大震災の記憶は、大人になっても、消えることはないだろう。津波が押し寄せてくる、一時間前には、みんなまだ生きている人の声を聞いていたのだ。被災地を訪れた時に、街にある声に耳を傾けている人びとに出会ったことが、今でも印象に残っている。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。