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2012/07/13

読書することと学者精神には、似たところがある

13_2渋谷学習センターでの面接授業(実質的には「読書会」と称している)が、はやくも最終日を迎え、9時には大団円となった。このような読書会が渋谷で可能だとはこれまで決して思わなかった。ここに至って、実際に実現してしまった現実をみると、わたしだけの感情かもしれないが、できるのだ、という感慨が湧いてきた。

13_3それぞれ専門の異なる若手の研究者4人の方がたと、一緒にこの授業を作ってきたが、まだまだ、最終的にどのようなことになるのかは、未知数の部分が存在するといえる。どのようなところが未知数なのかといえば、それは9時まで、みんなで本を読みたい、という好奇心が本当のところ、持続することができるのか、という点である。自分の仕事であれば、9時までもやるだろう。責任があるからだ。

13_4けれども、学問を行うには、責任や義務だけでは、せいぜい20歳までしか持たないのではないだろうか。それ以上、勉強を続けるためには、内的な原因が必要となってくる。さて、大げさな言い方になってしまったが、じつはもっと簡単なことなのだと、ほんとうは思っている。

先日、BS放送の映画で、渋谷実監督の「好人好日」(1960年)がかかっていた。伝説的な数学者Oを題材にしているのではないか、と想像される映画である。ゴム長靴が頭に良い、という有名なエピソードで、「学者の精神」ということを象徴的に表していると思う。けれども、ほんとうのところ、学者の精神などというものは、いったい有るのだろうか。

13_5つまり、俗世間から少し離れているが、全く離れてしまっているわけではない、という世界があり得て、時には、このような世界も世の中には必要であることを、よく描いている。たとえば、三木のり平の演ずる泥棒が、このような学者の世界を軽蔑して、赤子の手を捻るように、勲章を盗んでいくが、やがては盗んだものを返しにくるような世界なのだ。

13_6現実の世界に浸り切ってしまうと、人間は何も見えなくなってしまうだろう。時には、そこから離れてみることも必要なのである。けれども、あまりに現実からかけ離れてしまうと、それはそれで馬鹿みたいな人間になってしまうのだが。

この映画の成功している理由は、いくつかあるが、先ずは「奈良」というロケ地を選んでいることを挙げたい。かつて、歴史的には中心地であったが、今は中心地から離れていて、この「のんびりさ」が程良い。主人公が山に登って、奈良盆地を眺める場面が何回も出てくる。山に登ること自体、現実から離れ、また戻って行くことの比喩として効いている。第二に、俳優が素晴らしい。笠智衆や淡島千景、岩下志麻・・・などなど、程よく「付かず離れず」の演技を保っている。

そして、この時代にあって、「コーヒーを飲みにいく」という習慣を大事にしていることが、学者の精神を表しているといえる。そのことは、子どもとの付き合いになるかもしれない。あるいは、頭の中での発想を転換することになるかもしれない。けれども、机から離れることで、世間と繋がる効用が一番大きいのではないかと思われるのである。

13_7読書会の打ち上げは、中目黒へ繰り出した。ここに沼津のエールメーカーが店を出している。いつものように、A銘柄を1パイント空けることから始まった。ビールは、紛れもなく学者の精神に合っている。現実から離れるために必要だし、現実を批判するためにも必要なのだから。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。