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2012/05/06

雨宿りしながら、鮮烈な歌を反芻した

あかあかと一本道とほりたりたまきはる我が命なりけり

Photo_7という歌が展覧会の入り口で迎えてくれた。この歌で始まる「斎藤茂吉」展へ行く。茂吉が30歳代になって作った歌であり、生命の躍動が伝わってくる。有名な母への感情が横溢している第一詩集の「赤光」から受け継いでの「たまきはる」的な精神の状態がどくどくと伝わってくる。

けれども、すべてにわたって、このような躍動が支配していたのかといえば、そうではない。「赤光」には、次のような寂しい感じの歌も入っている。

かうべ垂れ我がゆく道にぽたりぽたりと橡の木の実は落ちにけらずや

Photo_8いとおしさ、あはれさなどが、ないまぜになってやってきたようだ。アララギの活動では、茂吉と赤彦の木曽連作にはかなりの緊張感がある。木曽福島の谷あいの暗く、新緑に満ちた様子をよく詠んでいると思われる。また、精神医としての仕事も、直接的に作風に影響を与えていると思われる。

自殺せし狂者の棺のうしろより眩暈して行けり道に入日赤く

そして、師である伊藤左千夫が亡くなったときに詠まれた歌は、身に迫る危機を真剣に受け止めようとする真摯さが感じられる。

ひた走るわが道暗ししんしんと怺へかねたるわが道くらし

この歌には、茂吉が強調する時にいつも使う、同じ言葉の反復がみられる。「わが道」ということにかなりのこだわりを見せている。けれども、自信喪失しているわけではない。寒い冬の日にあっても、ハツラツとした歌が詠まれてもいるのだ。

かんかんと橡の太樹の立てらくを背向にしつつわれぞ歩める

111展覧会では、当時の報道写真がたくさん展示されていた。青山病院の火災や、アララギの付き合い、おさな妻輝子とのやり取り、そして、斎藤茂太、北杜夫などの茂吉観など盛りだくさんで、2時間あっても観きれない内容だった。

すでに、陽が高くなって、仕事が終わりになる頃を見計らって、妻と家を出てきたので、会場である「神奈川県立文学館」につく頃には、閉館時間を意識しなければならない時間になっていた。粘って、閉館の音楽を背に聞きながら、文学館をあとにした。

Photo_10この頃までには、予報通りに雨がポツリポツリと振り出してきた。文学館の裏にある、111号洋館を迂回して、池の雨音を聞きながら坂道を登って、玄関を左に見て、立派な門に到達するころには本格的に降ってきた。そこで、庭園を見ながら、雨宿りして、時間を潰す。

Photo_11雨上がりの山手の街は、連休の人通りが嘘のように閑散としていて、落ち着いた街に戻っていた。いつものように、外人墓地を右手に見ながら、貝殻坂を下り、公園を突っ切って、ジュール煉瓦工場跡から、元町に入った。

Photo_13横浜元町は、常に独自性を持ち、洗練された街を目指しているように思える。だから、他の街にないような特性を伸ばしていれば、たぶんこれからも、横浜の街を象徴する街を保っていけると思う。横浜に住んで、まだ数十年にしかならないものが言うのが僭越であるが、どうも洗練されすぎるところがむしろ難点になりつつあるように、最近になって思えてきた。それがどのように作用するのかはわからないが、たとえば、写真のように、洗練された横浜老舗が並ぶ中で、シャッターを下ろしている店も目立っているのは、ちょっと心配だ。

Photo_14それにしても、子供の小さな頃に連れてきた店が、まだまだ残っているのは嬉しい。横浜の子供であれば、D家具屋さんの大きな赤い椅子には、一度は腰掛けさせてもらったことがあるはずだ。Photo_15また、今は鉄道会社に買収されてしまったUスーパーマーケットの緑の紙袋を持たされたこともあるはずだ。今日は、妻の好みの抹茶ロールケーキと、わたしの選んだ勝沼のワインとを買って、家に帰るとする。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。