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2012/04/22

映画「ヘルプ」で何が助けられ、何が助けられなったのか

Photo_4「The Help」を観る。ヘルプというのが、日本語の「お手伝いさん」という意味に、そのままなっていることを知った。とくに、米国の高度成長期に、郊外型の核家族が成立し、中産階級でもかなり裕福な家庭が現出し、「お手伝いさん」を雇えることになった。恒常的に、ヘルプの人出が足りないということが起こった。1960年代の米国社会の在り方がこの映画では問題とされている。そしてもちろん、ここでは人種問題と公民権運動は、重要な要素だった。

1960年代の米国南部ミシシッピー州には、黒人差別が根強く残っていた。公的な場においては、日本でも報道されているので写真でよく知っていた。バスの乗降口が別だったり、公衆トイレの入口が別だったり、さらには店についても黒人が利用できる店は限られていた。けれども、この映画が問題としているのは、公的な場所を一度離れたところ、プライベートな場所での差別だ。観ると、歴史的な記述では伝えられていない差別の存在がわかる。

つまり、家庭の中での黒人差別の問題だ。それは身近な問題であるだけに、かえって見過ごされ、さらに増幅されていた問題だといえよう。親密圏の中ほど、愛憎は激しく出てくる。社会の中で、公民権運動が激しくなり平等が叫ばれるほど、親密圏での差別がかえって激しくなるというパラドクスを描いている。

たとえば、衛生問題が差別を助長することは、親密圏特有の問題だと思われる。この映画の一つの象徴として選ばれているのが、ヘルプが家庭内のトイレを禁止され、外のトイレへ移されるという問題だった。そのことが、どのように問題を大きくして行くのかは、映画を見ていただきたい点である。

この映画は、白人女性で、結婚に行き遅れたジャーナリストが、ミシシッピー州の故郷の街でヘルプのインタヴューを得ることで、隠れていた差別状況を明らかにし、最後には一冊の本を上梓する物語である。メイドという一般的な名称も使われているから、このヘルプという名称はやはりこの時代、この地域の特殊な意味を持っているのだろうと想像される。

後半最大の見せ場は、「親密な関係における信頼とはどのようなものか」という点である。メイドだからして、日常の食べ物はすべてメイドによって作られている。もしメイドの信頼を失ったとしたら、どのような事態が待ち受けているのか、考えるだけでも恐ろしいし、本当のところを見てみたい事態だ。主人にチョコレートパイを食べさせる場面だ。あーあ。それだけはやめて欲しい。

親密な関係だからこそ、ひとたび信頼が失われると、もっとも恐ろしいことが起こるのだ。「食べ物に何が入っているかわからない」という状況は、人間関係の中でも、最も不確実な事態となりうることを、この映画は示している。

それにつけても。このヘルプの時代、1960年代は、米国にとって最も社会的信頼性が高かった時代であると言われている。公民権運動が盛んで、社会が良くなるという幻想がまだまだ存在し得たのだ。ところが、この時代を過ぎると、崖を転がるが如くに、米国の犯罪率は高くなり、社会的信頼性は地域で見られなくなるのだ。差別をなくそうということが、最後の信頼の証でしかなかった。このように、まだまだ幸福な時代が米国にもあったのである。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。