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2012/04/30

連休は風邪と共に去りぬ

渋谷の講義が終わって、皆と別れて、東横線に乗ったことまでは確かに覚えている。ところが、その一昨日前からの鼻風邪がどうしても直らない。熱が出てきて、鼻水が止まらない。医者からもらった総合感冒薬を飲むが、風邪に薬が効かないという定説通り、まったくどうにもならない。どんどん悪くなる一方だ。これほど、悪くなっていく、様子の見える風邪も、ここ1年来ということになるかもしれない。昨年のブログを観ていたら、ちょうど1年前にも、鼻をグジュグジュさせていた、とあった。けれども、そのときはどこかへ出かけようという意欲だけはあったらしい。今回は、それすらまったくない。

それで、晴耕雨読ではなく、晴耕風映とでも言うのだろうか。ここ数日、晴れることはなさそうだから、風邪を理由にして、映画三昧で過ごそうということになった。もっとも、それはひとりで決めたことだが。家族は、富山の高岡から能登半島への旅行へ出てしまった。

一日中寝込んでいた昨日のように、周りで何が起こっているのかわからないということはないが、本を読んでいても、世界が目の前で回り出すほどだ。朝から風も出て、雨も激しくなってきた。そんなお天気模様のなか、家で映画を観るにはちょうど良い日ということになるかもしれない。

朝早々に、テレビを付けると、フランキー堺主演の映画「地方記者」をやっていて、中央の記者とどこが違うのか、というドキっとするようなセリフが飛び交っていて、興味深かった。また、続いてちょうど1963年制作の岡本喜八監督映画「江分利満氏の優雅な生活」を放映した。当時の高度成長期の映画にしては、すでにそれを超越した作りになっている。サントリーの宣伝部という、それだけでイメージがあるような、職場の雰囲気が良く出ていた。

もちろん、会社の仕事はそんなに甘くはないだろうが、たとえ嘘であっても、高度成長期にこのような人びとが実際に活躍していたと思わせることが重要なのだと思われる。この点で、まだ高度成長期のほうが職場に余裕があったなと観察することができ、ところどころ面白くて観てしまった。

主人公が、第二次大戦中の父親をはじめとする戦争商売に対して、批判的な視点を出している。それにしても、小林桂樹が山口瞳の役を演じて、飲んでしゃべり、ときには絡んでえんえんと一晩しゃべり続けるだけの映画をよくも撮ったものだと思う。後半はさらに加速して退廃気味になって、高度成長からは逸脱するが、前半のテンポのよさは、積極的に高度成長期を描いていて面白いと思う。

Photo_11池脇千鶴主演の「ジョゼと虎と魚たち」は、以前観たときには忘れてしまっていたことが、かなりあって、また田辺聖子の小説を引っ張り出してきてみると、どれも皆違っていて、どこに最も印象に残ったところがあるのか、と探してみると、一番目には、虎が正面から「がおっ」と迫ってきて、怖い物を一緒に観たかった、というところかとも思ったが、どうもそうでは無いらしい。二番目に、男の子が、おばあさんが亡くなったあと、訪ねてきて、帰ろうとするシーンかと思えば、それはそれで小説でも映画でも、共通に名場面を構成していて、たいへん良かったのだけれども、どうも今一歩ちょっと違っている。

このころまでには、風邪もずいぶんと進行していて、すでに花粉症ではないことは十分認識できるほどになってきていた。それで三番目に、何がこの映画で最も印象的だったかといえば、それはこの映画の中でも最も映画的な部分だ。ジョゼは足が悪くて、台所では椅子に座っているのだが、その椅子から降りるときに、言葉では説明できないような、「ドダ」と音のする降り方をする。この一瞬、椅子の上の映像から、ふっとジョゼが消えてしまうとき、あれっという感じなのだ。このシーンはこの映画の特徴をよく掴んでいる。

映画はさらに続いて、すでにロードショーでは観ていたアルモドバル監督の「ボルベール(帰郷)」で、原色に近い色調で、香りが匂ってくる感じを、熱に魘されながら観てしまう。さらに、ゼタ=ジョーンズ主演の「理想の彼氏」で、心の中でニヤニヤ過ごし、ヒュー・グラント主演の「ラブソングができるまで」になるころには、映画であれば、もう何でも良いというくらいになっていた。だから、いつの間にか、夢うつつでうたた寝をしている最中に、どういうわけか、これらの映画が二度目を放映し始めたから、世の中がどうなっているのか、と不思議な感覚で眺めたものであった。

このようにして、連休を過ごしたのだが、だからこの休み前半にいったい何があったのか、よく覚えていない。すでに、歳老いてきているから、これからの毎日を予想させるに十分な、今回の風邪模様であった。記憶や自覚というものが、風邪とともに去って行ったのだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。