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2012/01/23

老いて何が変わったかといえば、リンゴのキャラメル煮の乗ったハニー厚トーストを好きになってしまったと言えるようになったことだ

Photo年を取って何が変わったかといえば、酒に弱くなった分だけ、甘さを求めるようになったということだろう。依然として、コーヒーは好きで、苦さへの嗜好は続いているところをみれば、味覚にちょっとしたズレが起こっているということだと思われる。もちろん、嗜好は気まぐれだから、それはほんの短期間のことかもしれないが。

若い時には、辛さや酸っぱさへ向かう傾向があった。それに、先祖が甘辛両刀遣いなので、辛さよりも、甘さへの嗜好がこんなに偏向して出てくることは想像出来なかった。今日取り上げたいのは、スィーツではなく、パンのトーストである。それも、とびっきり甘いトーストである。千葉市中央の喫茶店Rに、今日は寄ったのだが、この欄ではすでに登場しているので、注目いただいた方にも、もう一度ここで強調したいと思う。

Photo_2商品名は、「リンゴのキャラメル煮トースト」(サラダ付き)で、それを食べてきたのだ。ちょっと風邪気味で、食欲が今一歩だった。それで、トーストというのもよくわからないが、胃の消化には良いのではないかと思われたのである。

写真のように、厚さが売りものであるが、それ以上に、その上に乗っているものが問題である。濃厚なハニーバターが塗ってあり、その上にバニラアイスクリームと焼きリンゴのキャラメル煮の大きな固まりが数個乗っている。以前紹介したように、真ん中をまずくり抜くように、アイスクリーム・トーストとして食べるか、焼きリンゴトーストとして食べるかするが、基本的には、その甘さを楽しむことが重要だ。昔、トーストに砂糖をまぶして食べた記憶があるが、それにクリーム味が付いているのか、それとも、リンゴ味が付いているのかという違いだ。トーストのイースト菌の香りと甘さとが、なぜかマッチするのだ。

Photo_3この料理の場合、トーストは空腹を満足させる「現実」であり、これらの料理の基礎をなしていて、味の基本である。それに加えて、甘さは「想像」であり、舌を通じて、頭脳に甘さの強い刺激を与え、なんとなく仕合せな期待を、わたしにもたらす。だからと言って、それでどうということはないが、この味に憑かれて、老年を迎えた男がランチに通っている図は、江戸時代であったら浮世絵に描かれて、時代の「象徴」として、つまり「女性化した男性」の典型として、世に残ったことだろう。ところが、現代にあっては、このような甘さを求める老年男性はたくさんいるらしく、注目されるどころではない。

という雑談を先生方の集まるカンファレンス室でしていたら、蜂蜜のかかった厚トーストは、千葉のローカルな味ではなく、すでに日本全国的な流行なのだと、Y先生が教えてくださった。全国チェーンの普遍的メニューらしい。

Photo_4そういえば、先日京都に行ったときに、ハンバーグを食べに入った店に、厚ハニートーストがメニューに載っていて、隣のカップルが仲良くトーストの両側から食べていた。そのとき、商品棚の写真も撮ってきている。

なぜ真ん中から食べるのか、それは上に載るトッピングのせいらしい。さすがにアイスクリームをおかわりする人はいないだろうが、京都の店では、蜂蜜が乗せ放題なのだ。店員を呼べば、トーストの真ん中にじゃぶじゃぶと何度も注いでくれるのだ。加えてもうひとつ、何かをかけていたけれども、メイプルシロップなどのいずれ甘いものであることは間違いないだろう。

このダイエット全盛の時代に、なぜこのような甘いものが流行るのだろうか。おそらく、過度のダイエットへの志向が、かえって過剰な甘さへ人びとを誘うのではないか、と雑談では落ち着いたのだが、ちょっと考えてみると、単なるスィーツの問題ならば、それで良いと思われるが、問題はトーストである。もうひとつ理由があるのではないか、と思われる。

つまり、ランチを食べに行く。そこでご飯物や麺物が選ばれるのではなく、パンが選ばれる。ここまでは、ダイエット的な志向ではないかと思われる。そこで、パンが選ばれたことで、一気に反転して、甘い物も良いのではないか、ということになるのではないか。食事の甘味化とでも呼ぶべき、一つの兆候が進行しているのではないだろうか。さて、人間の欲望には限りがないのだが、ひとつのダイエットが成功するとその周りでは、もう一つの非ダイエットが芽を吹くのではなかろうか。

ここでパン・トーストという中性的な媒体が、今回の甘味化への呼び水になったということが、注目値することだと思われる。これが、パンでなく、もしホットケーキだったら、何も面白くもなく、当たり前のことだ。人間の贅沢は何を媒介して現れるのか、ちょっと脇で起こっていることだが、気になったことである。

Photo_5帰りに、千葉劇場を通りかかって、思い出した。何回かリバイバルされている「ベニスに死す」に頽廃を見ようと思っていて、すっかり忘れていた。すでに上映が終わっていた。甘さは記憶力の増進には効かないのだろうか。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。