« 「平凡にして偉大なすべての父と母へ」というオマージュ | トップページ | 疲れたときには、ヴィトゲンシュタイン方式で、後に残らないアクション映画が一番良い »

2012/01/06

葡萄との付き合いは長いが、いろいろと思い起こさせてくれた若冲の絵だった

Photo_2葡萄との付き合いは、深くはないが、長い。信州に生まれたので、乏しいときにも、秋になると近所の果樹園へ連れていってもらって、味覚を楽しんだ。リンゴをはじめとして、果物だけは豊かな土地に育った記憶がある。Photo_4とくに、葡萄は特別で、収穫の時にかならず農園に行って、蔓からたわわに実を付けているのを見ながら食べるのが、視覚も刺激を受け、味覚も増すのだった。祭りの要素は、果物のなかでも強かったのかもしれない。

年をとるにしたがって、葡萄酒を嗜むようになり、より身近な果物となっていった。けれども、農園に通っても、次から次へ出てくる品種改良の新種の名前を覚えるのは、苦手で主として味覚として覚えることにしていた。

Photo_5今、京都に来ていて、年末に予告していた相国寺の承天閣美術館に入って、若冲が鹿苑寺(金閣寺)大書院のために1759年に描いたとされる「葡萄小禽図床貼付」を観ている。禅の影響が著しいのは、正面に立ったときに、まず真ん中の白い空虚部分に圧倒されることだ。しかし、この空の空間をいかに認識させるのか、それがこの絵のすべてだと思われる。

http://www.shokoku-ji.jp/j_meihou_jaku_syouhekiga.html
良い写真は無いので、やはり実際に観ることをお勧めする。

Photo_6自然な空虚ということがあるならば、おそらくこのような描かれ方になるのではないだろうか、と想像する。もし構図のなかで、下方に何かが置かれていて、現実的な安定を想像させてしまったとしたら、空は現れなかったであろう。けれども、何かが描かれなければならない。そこで葡萄の持つ意味が出てくると思われる。

Photo_7葡萄の豊かさは、蔓にある。葡萄の蔓は上にあって、空のなかを自由に空間化している存在である。そして、葉と実を組み合わせた有機的な構成をポイントとポイントを繋ぎつつ、対比として、その間にポッカリとした白い空の空間を現出させている。もちろん、一様の白さというわけではないが、豊かな空だ。豊かな白さだ。それは、葡萄の豊かさがあって、その隣に何もないことで、豊かさだけが転移されているのだ。

Photo_8京都に在って、なぜ葡萄なのかと思う。やはり、この果物は昔にあっても、秋にしか得ることができない非日常的なものであって、特別な食べ物であったと考えられる。俗を離れて、聖に似合うものとして、葡萄は最適であったと、この絵を観ているとそのように思えてくる。メインテーマの芭蕉の図も、同じように、京都にはないものが選ばれて、非日常が自然に描かれている。

Photo_9江戸時代にあって、これほどシンプルかつ陰翳豊かな葡萄は、どこで観ることができたのだろうか。若冲は、錦小路の青物屋出身であるから、これらの植物をどこで観ることができるのかについては、豊富な知識を持っていたと思われる。Photo_13それにしても、この時代に入ってきて、俗から離れず、俗を超えるという、禅文化を理解し、なおかつ、相応の作品を寺に納めることができたという力量には見事なものがある。

Photo_11帰り道は、相国寺の裏から、出町柳へ通じる静かな街並みを歩んだ。ちょうど陽がくれてきて、出町柳の橋と駅に着く頃には、うっすらとした夕焼けと、7分ほどに満ちた月で、京都の黄昏を飾っていた。Photo_12噂に聞いていたクラシック喫茶「R」で、今日最後のコーヒーとケーキを食べる。最初はチャージを取られるということで、ちょっと敷居が高かったけれど、天井も高く、良い音が響いていて、曲目もちょうどバッハの無伴奏チェロ曲がかかっていた。その後あっという間に2時間ほどが経ってしまった。

« 「平凡にして偉大なすべての父と母へ」というオマージュ | トップページ | 疲れたときには、ヴィトゲンシュタイン方式で、後に残らないアクション映画が一番良い »

絵画・展覧会」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/53750871

この記事へのトラックバック一覧です: 葡萄との付き合いは長いが、いろいろと思い起こさせてくれた若冲の絵だった:

« 「平凡にして偉大なすべての父と母へ」というオマージュ | トップページ | 疲れたときには、ヴィトゲンシュタイン方式で、後に残らないアクション映画が一番良い »

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。