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2011/12/19

病院の退屈さは、普遍的な問題なのか

Photo_3母親の診療の付き添いで、病院に来ている。朝の通勤時間を避け、歩くのも最大限避け、ようやく実現した。ところがじつは、行き帰りはそれほど困難を感じないが、病院のなかでは、どのように時間を使うのか、そのことが本当のところ大問題なのだ。

病院の中では、行動を制限される。これは、病人がいるのだからで仕方ない。写真に写っているのは、呼び出し機器である。PHSで順番が来ると医師が呼び出してくれる。それまでは、病院内にある売店や、喫茶店に居ても良いという、昔なら考えられないほどの自由さが今日の病院にあるのは事実である。

Photo_5けれども、病人は健康人と同じには、扱うことができないだろう。そこで行動に制限を受けたことで、自分で行おうとしたことができないと感じ、二次的な行動を取らなければならないと認識することになる。このために、窮屈な感情を持つことになってしまう。

二次的な行動で我慢することは、古典的には、「退屈」ということになってしまう。社会心理学者のクラップの説によると、近代的な退屈については、二つの考え方があると言われている。

ひとつは、従来からの古典的な考え方で、何もすることがないから、退屈を感ずるというもので、貴族や王様が感じてきたような貴族主義的な「過小負荷」的退屈である。これについては、貴族でなくとも、近代になると大衆層でも感ずるようになる考え方である。例を上げろといえば、数限りない。

じつは、もう一つが問題で、人びとが「過剰負荷」に陥ると、退屈を感ずるという、極めて近代的な悩みである。おそらく、貴族や王様はこのような悩みを持たなかったと思われる。押し付けられたペースで動くベルトコンベアの流れの中に、常にいる人びとはどうだろうか。ある国では、時の総理大臣が仕事を放り出すくらい負荷がかかるらしい。このときの心理状態がどうなのか、下にいるものにとっては、本当のところは想像できないが、強迫観念で義務感を維持できれば、退屈しないのであるが、そうではなく、強迫観念が過剰に働きすぎると、かえって退屈を感じてしまうことになるのだろうと想像される。

病院での退屈は、おそらく病人と、付き添いとでは異なるのではないだろうか。病人ならば、この待たされる時間はかなり辛い時間で、イライラして、相当な過剰負荷がかかってしまうだろう。付き添い人のばあいには、まだ古典的な退屈にとどまることができるのではないかと思われる。同じ時間について、二人の間のイライラ感が何となく異なるのは、このような違いなのではないだろうか。

珍しく、気の長いはずの母が、4時間にも及ぶ待ち時間に怒っていたのは、どうにも説明をつけることは難しいが、あえて言ってみると、このような上記の違いがあるように思われた。

つまり、本当に行いたいと考えていることができない、あるいはわからないときに、二次的な行動を行わなければならず、この二次性に我慢出来ない人は、退屈してしまうのではないか、と考えた次第である。

話はすこし飛ぶが、退屈の万能薬は読書であると、古今東西言われ続けてきている理由が、ここでかなりわかって来るのではないかと、個人的には思っている。というのも、読書は他の意見を受け入れることを第一義とする作業である。つまり、読書は二次性行動の権化のような、いわば時間つぶし行動であり、退屈との親和性はたいへん高いのではないか。そのことが、読書をして、退屈つぶしへと向かわせることになるのだと言えよう。ここから考えるに、退屈の時代にあって、その特効薬は二次的な活動にも満足する精神性を身につけることが必要なのではないだろうか。

自分にとっての一次活動を見つけようとするのか、あるいは、二次活動でも満足できる体質を作ることに精をだすのか、この辺に岐路があるように思える。病院には、ほんとうに読書が進むという現実がある。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。